いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『ベッドタイムアイズ』山田詠美(著)の感想【日本人女性と黒人兵の愛欲】(文藝賞受賞、芥川賞候補)

日本人女性と黒人兵の愛欲

主人公は、横須賀のクラブで、歌手やストリッパーとして働いています。

クラブでビリヤードに熱中する黒人男性を見つめていると、彼から目で合図を受けます。誘導されるがまま、誰もいないボイラー室へ行きます。

主人公が何か話そうと口を開くと、その中に彼の舌が差し込まれます

主人公もその気で、

早くこの男の体の匂いを知りたい

と感じます。

彼は、スプーンを持ち歩いていることから、「スプーン」と呼ばれていました。

ポケットの中のスプーンに主人公の手が触れたとき、生理がきて、感覚が麻痺します。

足を高々と上げた、そのままの姿勢で私は彼を見詰める。湿った私の額に張りついた髪の毛を指でつまみ彼は私に、これから君の顔を思い出すたびにオレはマスターベイトするだろう、と言った。

私を思い出して自分を慰めるスプーンを想像して私はせつない気持になった。

(中略)

私の口に、それは入り込み、体内に飛び火し、やがて沈着し、ゆっくりと溶けて甘く染み込んでいく

そしてスプーンは、横須賀の基地を抜け出し、主人公の家に入り浸ります。

そこで繰り広げられる、ドラック、酒、セックス。

日本人女性と黒人兵の愛欲に興味がある人におすすめです。

ベッドタイムアイズ (河出文庫)

ベッドタイムアイズ (河出文庫)

  • 作者:山田 詠美
  • 発売日: 1987/08/01
  • メディア: 文庫
 

スプーンに惹かれる理由

主人公は、スプーンがいなくなってしまうことを恐れています

スプーンが何らかの理由で私の許を去った時、私はどうするのだろう。(中略)私の傍にいて、私と一緒に微笑んだり怒ったり、メイクラブを常に出来る範囲にいる。それがなければ彼が死のうと生きようと同じ事だった。私は自分の目の前にあるものだけを愛するだろう。目に見えるものしか見たくない。去っていったものは存在しないものなのだ。

スプーンは主人公に暴言を吐き、暴力をふるい、他の女性の家に行きます。

それなのになぜ、主人公は彼に惹かれるのでしょう

スプーンは私をかわいがるのがとてもうまい。ただし、それは私の体を、であって、心では決して、ない

体をかわいがられた末に、心を奪われることはあるのでしょうか。

スプーンと他の男は、主人公にとって違うのはわかります。

ですが、その違いを示す魅力を、読み取れませんでした。他の男にはなく、スプーンにしかないものに惹かれる理由がわからなかったのです

目が合ってすぐセックスすることが、私にとって非現実だから、そう思うのかもしれません。

つまらないわけではありません。

先を読ませる文章ですし、他では味わえない世界観があります。(それでも、村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』と比較してしまいます)

登場人物に魅力を感じられないので、物語が刺激的でも、読んだ後に残りません。

主人公の言葉を使って言うなら、一回だけのメイクラブみたいに。

ベッドタイムアイズ (河出文庫)

ベッドタイムアイズ (河出文庫)

  • 作者:山田 詠美
  • 発売日: 1987/08/01
  • メディア: 文庫
 

調べた言葉

  • アンクレット:足首に付ける腕輪状の飾り
  • 不具:体の一部に障害があること
  • 身をやつす:やつれるほどあることに熱中する
  • 悪血(おけつ):病毒を含んだ血液
  • ふてぶてしい:開き直っていてずうずうしいさま