日本人女性と黒人兵の愛欲
主人公は、横須賀のクラブで、歌手やストリッパーとして働いています。
クラブでビリヤードに熱中する黒人男性を見つめていると、彼から目で合図を受けます。誘導されるがまま、誰もいないボイラー室へ行きます。
主人公が何か話そうと口を開くと、その中に彼の舌が差し込まれます。
主人公もその気で、
早くこの男の体の匂いを知りたい。
と感じます。
彼は、スプーンを持ち歩いていることから、「スプーン」と呼ばれていました。
ポケットの中のスプーンに主人公の手が触れたとき、生理がきて、感覚が麻痺します。
足を高々と上げた、そのままの姿勢で私は彼を見詰める。湿った私の額に張りついた髪の毛を指でつまみ彼は私に、これから君の顔を思い出すたびにオレはマスターベイトするだろう、と言った。
私を思い出して自分を慰めるスプーンを想像して私はせつない気持になった。
(中略)
私の口に、それは入り込み、体内に飛び火し、やがて沈着し、ゆっくりと溶けて甘く染み込んでいく。
そしてスプーンは、横須賀の基地を抜け出し、主人公の家に入り浸ります。
そこで繰り広げられる、ドラック、酒、セックス。
日本人女性と黒人兵の愛欲に興味がある人におすすめです。
スプーンに惹かれる理由
主人公は、スプーンがいなくなってしまうことを恐れています。
スプーンが何らかの理由で私の許を去った時、私はどうするのだろう。(中略)私の傍にいて、私と一緒に微笑んだり怒ったり、メイクラブを常に出来る範囲にいる。それがなければ彼が死のうと生きようと同じ事だった。私は自分の目の前にあるものだけを愛するだろう。目に見えるものしか見たくない。去っていったものは存在しないものなのだ。
スプーンは主人公に暴言を吐き、暴力をふるい、他の女性の家に行きます。
それなのになぜ、主人公は彼に惹かれるのでしょう。
スプーンは私をかわいがるのがとてもうまい。ただし、それは私の体を、であって、心では決して、ない。
体をかわいがられた末に、心を奪われることはあるのでしょうか。
スプーンと他の男は、主人公にとって違うのはわかります。
ですが、その違いを示す魅力を、読み取れませんでした。他の男にはなく、スプーンにしかないものに惹かれる理由がわからなかったのです。
目が合ってすぐセックスすることが、私にとって非現実だから、そう思うのかもしれません。
つまらないわけではありません。
先を読ませる文章ですし、他では味わえない世界観があります。(それでも、村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』と比較してしまいます)
登場人物に魅力を感じられないので、物語が刺激的でも、読んだ後に残りません。
主人公の言葉を使って言うなら、一回だけのメイクラブみたいに。
調べた言葉
- アンクレット:足首に付ける腕輪状の飾り
- 不具:体の一部に障害があること
- 身をやつす:やつれるほどあることに熱中する
- 悪血(おけつ):病毒を含んだ血液
- ふてぶてしい:開き直っていてずうずうしいさま