いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『リリイ・シュシュのすべて(小説)』岩井俊二(著)の感想【生きるか死ぬかの思春期】

生きるか死ぬかの思春期

リリイ・シュシュは女性歌手です。

彼女の歌に魅せられた主人公は、彼女について語り合うネット掲示板を運営しています。

この小説は、掲示板への書き込みだけで構成されています。

例えば、

《投稿者:サティ》7月11日(火)20時44分

□サヨナラ

ニンゲンハ、トベナイ。

といった形式です。

匿名で書き込まれる内容は、曲の感想やライブ情報、リリイの過去など、自由です。

投稿者同士の恋や、特定の者に対する誹謗中傷もあります。

一方で、ネットを離れた世界では、主人公は中学生です。

そこでは壮絶な出来事が続きます。

  • 仲間同士で大人から金を窃盗
  • 同級生から自慰を強要
  • 援助交際を強制される女子を送迎
  • 同級生の女子がレイプされるところを撮影
  • 同級生の女子が自殺
  • 同級生をナイフで刺す

そんな生活の拠り所になるのは、リリイ・シュシュの音楽だけです。

彼女の音楽だけが、主人公にひと時の癒しを与えます。

その音楽が奪われたら、主人公は行き場を失います。

恋だの愛だのみずみずしさだの、青春特有の楽し気なものはありません

あるのは行き場のない閉塞感。と、それでも生きているという事実です。

生きるか死ぬかの思春期に興味がある人におすすめです。

リリイ・シュシュのすべて (角川文庫)

リリイ・シュシュのすべて (角川文庫)

  • 作者:岩井 俊二
  • 発売日: 2004/02/01
  • メディア: 文庫
 

救いがないのに読む理由

救いがなく、落ち込むのがわかっていながら、読んでしまうのはなぜでしょう。

解説の重松清さんは言います。

ぼくたちの胸をえぐるほど痛い。痛いからこそ、リアル。リアルだからこそ、絶望的な筋書きの果てに、痛みとは違うなにかが胸に残る。

重松さんの言う「痛みとは違うなにか」を求めて読んでいるとしたら、その「なにか」とは一体何なのか。

残念ながら読んだ後に残るのは、行き場ない閉塞感です。

この作品に、読んだ後に残る何かを期待していません。

他人が経験した悲惨さを体験したいから読んでいます。

決して自分では体験したくはない。それでも物語を通じてなら壮絶な体験をしてみたいと思うから、手に取ります。

気分が良くなることはないし(むしろ気が滅入ります)、自分がこうならずに良かったと思うわけでもありません。

主人公たちの壮絶な体験を直視し、耳を澄ます。それだけです。

何かを学んだり得たりすることはありません。

では、何でわざわざ気分が滅入るような体験をしたいのでしょうか

自分が経験できないような、嫉妬、憎悪、陰湿、裏切りなどのネガティブな感情の渦に飲まれたい好奇心からです。

いつもではなく、自分がマイナスの感情になっているときには敬遠しています。

気分が落ちたら、戻ってくるのに時間がかかるからです。

感情の渦に飲み込まれ気分が落ちて、ようやく上がってきたときの私に何か変化があるかというと、何も変わっていません

リリイ・シュシュのすべて (角川文庫)

リリイ・シュシュのすべて (角川文庫)

  • 作者:岩井 俊二
  • 発売日: 2004/02/01
  • メディア: 文庫