いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『とんこつQ&A』今村夏子(著)の感想①【メモを読み上げる店員】

メモを読み上げる店員

「とんこつ」は町の中華料理屋です。

メニューに「とんこつラーメン」はありません。

なぜ、店の名前が「とんこつ」かというと、元々店の名前は「とんこう」で、店の看板の「う」の上部分がはがれ、とんこ「つ」に見えたからです。

店を切り盛りするのは、大将と、小学生の息子です。大将の妻(息子の母)は亡くなっています。

主人公の女性は、店のバイト募集の張り紙を見て、店に入ります。

その日に採用され、翌日から働き始めるのですが、主人公には問題がありました。

わたしは「いらっしゃいませ」と言うことすらできなかった。「いらっしゃいませ」を言えないわたしは、「ありがとうございました」も言えなかった。空いたお皿を下げることも、注文を取りにいくこともできなかった

仕事の全くできない主人公を、大将や息子は責めません。慰め、励まします。

主人公は、どうしたら「いらっしゃいませ」を言えるか悩み、やがて発見します。

書かれた文字を「読む」ことならできる

主人公がメモに「いらっしゃいませ」と書くと、「いらっしゃいませ」 と言えました。

メモに書いて読めばいいという発見をした主人公は、メモを一冊のノートにまとめます。ノートの表紙に、「とんこつQ&A」と書きました。

ノートが完成すると同時に、主人公はメモなしで接客できるようになります。

主人公の接客は上達し、店は繁盛します。

もう一人、接客のバイトを雇ったのですが、そのバイトの女性も全く仕事ができません。かつての主人公と同じです。

いら立つ主人公ですが、大将も息子も、バイトの女性を責めません。

「とんこつ」の人間は、仕事のできない人を責めたりしない

バイトの女性は、9時間の労働時間のうち、8時間は壁に寄りかかってぼーっとしていて、残り1時間は休憩です。 

なぜ、それが許されているのでしょう。

大将と息子は、バイトの女性を、亡くなった妻(母)に見立てていました

バイトの女性は、亡くなった妻(母)と同じ大阪出身だったので、言葉のイントネーションがそっくりです。

バイトの女性は、「とんこつQ&A」に書かれた文字を読み上げることはできます。

大将と息子は、妻(母)の口調に寄るように、「とんこつQ&A」をバイトの女性に読ませていました。

――そう! それがお母さんの笑い方だよ。じゃもう一回行くよ。

(中略)

次は、おれのこと、……お父さん、って言ってみてください

――お父さん。

――なんだい、お母さん。

主人公も、かつては大将の妻(息子の母)の役割を担う候補でしたが、次なる候補(バイトの女性)が現れ、候補から外れます。

候補からは外れましたが、大将も息子も、主人公をクビにしません。

息子は主人公に言います。

ボクらのために、これからもずーっとずーっとずーっと、ここ、””とんこつ””にいてね!

主人公は、大将の妻(息子の母)の役割は果たせませんでしたが、仕事は何でもできるようになっていました

感想②はこちらです。