いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『あなたの小説にはたくらみがない 超実践的創作講座』の感想【編集者視点の小説の書き方】

編集者視点の小説の書き方

著者は、新潮社の編集者です

40年間、編集に携わり、5つの新人賞を立ち上げた経験があるようです

小説を書こうとする方々に申し上げたいのは、好きなように書くのが身のためですよ、ということだ。これだけ小説の「物差し」が変化してきたのだ、昨日までの「傾向と対策」などすっかり捨てておしまいなさい。

  • 好きなように書く
  • 「傾向と対策」を学んで書く

新人賞を受賞できれば、どちらでもよいと思いました。

私は、応募する新人賞の受賞作を読んだところで、その新人賞の「傾向」も「対策」もつかめません。

必然的に、好きなように書くしかありません。

もちろん、好きなように書けば何でも良いわけではありません。

この世の大半の人々が良しとしている社会的価値観を、漠然と「公序良俗」と呼んでいいなら、これをそのまま、何のたくらみもなく小説に反映させようというのは愚行である

タイトルにもある、「たくらみ」が必要なのでしょう。

人の心の危うさをこそ好んで描くのが小説というもの最終的には主人公が正義の側を選択するにしても、ジレンマに陥った際に悪魔の誘惑に乗るといった迷い道をし、なかなか抜け出せなかったりするものだ

  • たくらみがある小説:人の心の危うさを描き、迷いながら道を進む
  • たくらみがない小説:公序良俗をそのまま当てはめ、一本道を進む

また著者は、ダイレクトにテーマを出すことで、説得力をなくすと言います。

「結果として」「気づかぬうちに」読者が説得されていたという形が取れない限り、その小説は一番大事なところで失敗を犯すことになるのだ

読者をテーマに誘い込み、読者は感動とともに何物かを得る

読者を説得しようとしすぎてはいけない、ということでしょう。

語り手や登場人物が話し過ぎる小説は、読者を説得しにきてる感があります。

語り手や登場人物の口を借りて、作者の言いたいことを代弁させてる感があります。

私も、知らないうちに説得されている小説の方が好みです。

では、どんな分野の小説を書けばいいのでしょうか。

小説という長尺のメディアにふさわしい分野は、(中略)「人生哲学」を含む哲学系であり、自然科学や社会科学のような専門性の高い研究であろう

(中略)なぜそうした分野が小説と相性がいいかと言えば、答えは簡単で、いくらでも深堀りがきくからである。テーマの何段階もの深化に寄り添えるだけの、井戸の深さをもっているからに他ならない

小説=長尺のメディアという感覚はありませんでした。

確かに、テレビや映画、YouTubeと比較すると、小説は長尺です。

長尺だからこそ、登場人物を掘り下げられます。

長尺には長尺の戦い方があると感じました。

やるべきことは、

ともかく興味ある分野に詳しくなることだ。(中略)得意分野を複数作ることだこの分野なら誰にも負けないと胸を張れるもの。自分のものとなったそれらの視角が複数集まり、時間の積み重ねと相まって「積分」的な思考が生まれるのである。

専門性を極めて小説に落とし込めば、その小説だけの希少性が生まれます。

新人賞の受賞作は、今までの小説や、他の応募作とは、似ていないのだと思います。

その小説にしかないものを出すためにも、専門性を取り入れるのが良いと学べました。