いっちの1000字読書感想文

一応平成生まれ。小説やビジネス書中心に感想を書いています。

あの時できなかったこと 村上春樹『1973年のピンボール』(芥川賞候補)の感想(1000字)

あの時できなかったこと

 あの時できなかったことが、今ならできるかもしれない。

 そう思い、行動するには、ある程度の時間が必要です。

 主人公は、大学時代にピンボール台「スペースシップ」に没頭していました。

 ですが、ゲームセンタ―の突然の閉店で「スペースシップ」がなくなりました。

 どうすることもできません。

 社会人の今、「スペースシップ」を探すことにします。

3フリッパーの「スペースシップ」……、彼女が何処かで僕を呼びつづけていた。(p.126)

 「スペースシップ」を「彼女」と呼んでいました。

 擬人化されていることから、ただのピンボール台、というわけではなさそうです。

 ゲームに負けた主人公は「彼女」に励まされます。

あなたのせいじゃない、と彼女は言った。そして何度も首を振った。あなたは悪くなんかないのよ、精いっぱいやったじゃない。

(中略)

人にできることはとても限られたことなのよ、と彼女は言う。(p.120)

 ゲームに負けて、こんな大げさになるでしょうか。

 「スペースシップ」は、誰かを擬人化したものなのでしょう。

 以下に興味がある人におすすめです。

  • ピンボール
  • 隠された謎
  • 心の傷
1973年のピンボール (講談社文庫)

1973年のピンボール (講談社文庫)

 

一言あらすじ

 目を覚ますと、両脇に双子の女の子が寝ていた。二人と生活しながら、主人公は、かつて没頭したピンボール台を探しまわる。

 

主要人物

  • 僕:主人公。翻訳会社で働く
  • 双子:ある日主人公のベッドで寝ていた

 

謎は謎のまま

 朝目覚めたら、双子の女の子が両脇で寝ていました

 普通、「どういうこと?」って思いますし、家に帰します。

 主人公は追い返すことなく、双子と生活します。

 この二人が何なのかは明かされません。

 そういう謎が、散りばめられています。

 明確な答えは書かれていませんので、読者が想像するほかありません。

 

擬人化されるピンボール

 主人公は、ピンボール「スペースシップ」を彼女と呼びます。

 「スペースシップ」は、大切な女性を擬人化している存在といえるでしょう。

 ピンボールに負け、

  • あなたのせいじゃない
  • あなたは悪くなんかないのよ、精いっぱいやったじゃない
  • 人にできることはとても限られたことなのよ

 と声が聞こえるのは、現実の女性が主人公に掛けた言葉ともいえます。

 女性に何かがあって、助けてあげることができなかった……。

 

 小川洋子さんは、村上作品の新しさを「傷は言葉で書きあらわせないということを書いている点」だと言います。

 心に負った傷が完全に治ることはありません。

 また、謎が謎のままにされている作品を、無理に解読する必要はありません。

 傷も謎も、読んだありのままを受け入ればいいと思います。

1973年のピンボール (講談社文庫)

1973年のピンボール (講談社文庫)

 

調べた言葉

コロニー:植民地

呪術:超自然的な現象を起こさせようとする行為

洞察:よく観察して本質を見抜くこと

おもむろに:落ち着いて始めるさま

茫漠:広くてとりとめのないさま