あの時できなかったこと
あの時できなかったことが、今ならできるかもしれない。
そう思い、行動するには、ある程度の時間が必要です。
主人公は、大学時代にピンボール台「スペースシップ」に没頭していました。
ですが、ゲームセンタ―の突然の閉店で「スペースシップ」がなくなりました。
どうすることもできません。
社会人の今、「スペースシップ」を探すことにします。
3フリッパーの「スペースシップ」……、彼女が何処かで僕を呼びつづけていた。(p.126)
「スペースシップ」を「彼女」と呼んでいました。
擬人化されていることから、ただのピンボール台、というわけではなさそうです。
ゲームに負けた主人公は「彼女」に励まされます。
あなたのせいじゃない、と彼女は言った。そして何度も首を振った。あなたは悪くなんかないのよ、精いっぱいやったじゃない。
(中略)
人にできることはとても限られたことなのよ、と彼女は言う。(p.120)
ゲームに負けて、こんな大げさになるでしょうか。
「スペースシップ」は、誰かを擬人化したものなのでしょう。
以下に興味がある人におすすめです。
- ピンボール
- 隠された謎
- 心の傷
一言あらすじ
目を覚ますと、両脇に双子の女の子が寝ていた。二人と生活しながら、主人公は、かつて没頭したピンボール台を探しまわる。
主要人物
- 僕:主人公。翻訳会社で働く
- 双子:ある日主人公のベッドで寝ていた
謎は謎のまま
朝目覚めたら、双子の女の子が両脇で寝ていました。
普通、「どういうこと?」って思いますし、家に帰します。
主人公は追い返すことなく、双子と生活します。
この二人が何なのかは明かされません。
そういう謎が、散りばめられています。
明確な答えは書かれていませんので、読者が想像するほかありません。
擬人化されるピンボール
主人公は、ピンボール「スペースシップ」を彼女と呼びます。
「スペースシップ」は、大切な女性を擬人化している存在といえるでしょう。
ピンボールに負け、
- あなたのせいじゃない
- あなたは悪くなんかないのよ、精いっぱいやったじゃない
- 人にできることはとても限られたことなのよ
と声が聞こえるのは、現実の女性が主人公に掛けた言葉ともいえます。
女性に何かがあって、助けてあげることができなかった……。
小川洋子さんは、村上作品の新しさを「傷は言葉で書きあらわせないということを書いている点」だと言います。
心に負った傷が完全に治ることはありません。
また、謎が謎のままにされている作品を、無理に解読する必要はありません。
傷も謎も、読んだありのままを受け入ればいいと思います。
調べた言葉
コロニー:植民地
呪術:超自然的な現象を起こさせようとする行為
洞察:よく観察して本質を見抜くこと
おもむろに:落ち着いて始めるさま
茫漠:広くてとりとめのないさま