文学、社会、政治を考える
2002年のデビューから2019年までに書いたものをまとめた、エッセイ集です。
3つの章に分かれています。
- エッセイと文学論的なもの
- 社会問題や政治
- エッセイと受賞関連の文
書き下ろしは、以下の3つです。
- 作家志望の方々に
- この国の「空気」
- 様々な国のブックフェスティバル
印象に残った箇所について。
「作家志望の方々に」では、何かを目指している人に向けた言葉です。
何かを目指している方々に一番伝えたいのは、何かになってから自分の人生が始まる、とは思わない方がいいということ。何かを目指している時も、かけがえのないあなたの人生だということ。(p.141)
「この国の『空気』」では、現政権に批判的な中村さんに、読者は同調しないでいいということです。
当然のことを書くけど、もしこれを読んでいる人で現政権を支持している人がいたら、当然現政権に入れるために投票に行くべきだ。(p.210)
「様々な国のブックフェスティバル」では、小説を読むことと差別との関係についてです。
小説を読む、つまり個人の内面を見、それに寄り添う習慣を持っている人は、排他主義者や、差別主義者などにはなり得ない。人を外側から一方的に見るのではなく、個人の内面に寄り添う想像力が、小説を読む人に養われていることが多いからだ。(p.234)
何かを目指している人や、社会や政治について考えたい人におすすめです。
小説が好きになる
本書を読むと、小説がより好きになります。
小説には本当のことが書かれていると、再認識するからです。
現実で言いたいことを伝えるとき、仲が良い人でない限りは、相手を気遣ってオブラートに包むと思います。
ですが、小説では内面の対話が書かれています。
人との付き合いに疲れたときは、
表面だけ適当に付き合って、ラインやメールは適当に返して、マジでどうでもいいことが書かれたフェイスブックも顔をしかめながら読んで「いいね」を押して、本当の内面の対話は小説でという感じでもいい。(p.215)
他人を気にしすぎる必要はないと、励ましてくれます。
『去年の冬、きみと別れ』ができるまで
この作品ができるまでが、素敵でした。
- デビュー当時の中村さんに、出版社でバイトする青年から手紙が届く
- 青年に「いつか正社員になるのでその時に仕事をしてください」と言われる
- 中村さんが「いずれ落ちぶれて消えていく」と言っても、青年は「そんなことは絶対にない」と言う
- 10年後、青年は正社員の編集者になり、中村さんは芥川賞作家になっていた
- 『去年の冬、きみと別れ』を出版することになり、ベストセラー
この背景を踏まえて、再読します。