少年の日の思い出
ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』を読むため、手に取りました。
中学1年生の国語の教科書に掲載されているようですが、
私の中学時代の教科書には載っていませんでした。
では、なぜ読みたくなったのかというと、
ある日、朗読で聞いた、
「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」(p.130)
が切なく、心に残っていたからです。
この作品は、蝶の収集にまつわる、少年時代の思い出です。
- 友人が珍しい蝶を収集したと知り、少年は友人宅へ行きますが、不在でした
- 少年は、友人の部屋でその蝶の標本を見ます
- 美しさのあまり、それを盗みます
- 思い直して、蝶を元に戻そうとしたところ、誤って蝶をつぶしてしまいます
- 家に帰り、母に報告します
- 母から友人に謝るように言われます
- 謝るため友人宅へ行きます
- 友人から「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」と軽蔑されます
そのときはじめてぼくは、一度起きたことは、もう償いのできないものだということを悟った。(p.131)
主人公は、盗んだ直後、思い直しています。
ですが、蝶をつぶしていたために、元に戻すことはできませんでした。
友人の対応は、当たり前です。
大切なものを壊されたのですから、軽蔑するのは当然です。
ただ、どうしても主人公を悪く思えないところが、やるせなさを感じさせます。
悪く思えないのは、
- 盗んだ直後に思い直した
- 蝶をつぶしてしまったことを母に報告した
- 母から謝るように言われて、友人宅へ謝りに行った
からです。
悪いところは、蝶の扱いが雑だったことです。
謝罪から帰った少年に対し、母は、
- 根ほり葉ほり聞こうとせず、
- キスだけして、構わずおいてくれました
普通、「ちゃんと謝ったの?」とか「壊した代わりに何をあげたの?」とか、聞いてしまいそうです。おそらく母は気にしているでしょう。
ですが、その気持ちをぐっと抑え、放ってくれた母に少年は救われます。
最後、少年は今まで収集してきた蝶を、一つ一つ、自分の指で押しつぶしていきます。
そこまでする必要はないのにです。
今まで苦労して集めたものを、一つずつ壊していくさまは、悲しみが浮かばれます。
中学1年生で読んでいたら、トラウマになったかもしれません。
一方で、中学1年生だからこそ、
「一度してしまったら最後、償えないものもある」
ことを知るきっかけに、大切な作品だと思います。
『少年の日の思い出』以外の未読作品では、
- 山本周五郎『鼓くらべ』
- 森鴎外『高瀬舟』
- 井上ひさし『握手』
が、素晴らしかったので、
国語の教科書に抵抗があった人におすすめです。
調べた言葉
- 邪智:悪知恵
- 頑強:頑固で屈せず強いこと
- 車軸を流す:激しく雨が降るさま
- 奸佞(かんねい):ずるがしこく、人にこびへつらうこと
- 韋駄天(いだてん):バラモン教の神でシヴァ神の子。足が速い人のたとえ
- 稀代(きたい):きわめてまれなこと
- 断続:物事がとぎれながら続くこと
- 鞴(ふいご):火力を強くするための送風装置
- 慄然:恐ろしさにふるえおののくさま