いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作 再び』の感想【少年の日の思い出】

少年の日の思い出

ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』を読むため、手に取りました。

中学1年生の国語の教科書に掲載されているようですが、

私の中学時代の教科書には載っていませんでした。

では、なぜ読みたくなったのかというと、

ある日、朗読で聞いた、

そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」(p.130)

 が切なく、心に残っていたからです。

この作品は、蝶の収集にまつわる、少年時代の思い出です。

  1. 友人が珍しい蝶を収集したと知り、少年は友人宅へ行きますが、不在でした
  2. 少年は、友人の部屋でその蝶の標本を見ます
  3. 美しさのあまり、それを盗みます
  4. 思い直して、蝶を元に戻そうとしたところ、誤って蝶をつぶしてしまいます
  5. 家に帰り、母に報告します
  6. 母から友人に謝るように言われます
  7. 謝るため友人宅へ行きます
  8. 友人から「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」と軽蔑されます

そのときはじめてぼくは、一度起きたことは、もう償いのできないものだということを悟った。(p.131)

主人公は、盗んだ直後、思い直しています。

ですが、蝶をつぶしていたために、元に戻すことはできませんでした。

友人の対応は、当たり前です。

大切なものを壊されたのですから、軽蔑するのは当然です。

ただ、どうしても主人公を悪く思えないところが、やるせなさを感じさせます。

悪く思えないのは、

  • 盗んだ直後に思い直した
  • 蝶をつぶしてしまったことを母に報告した
  • 母から謝るように言われて、友人宅へ謝りに行った

からです。

悪いところは、蝶の扱いが雑だったことです。

謝罪から帰った少年に対し、母は、

  • 根ほり葉ほり聞こうとせず
  • キスだけして、構わずおいてくれました

普通、「ちゃんと謝ったの?」とか「壊した代わりに何をあげたの?」とか、聞いてしまいそうです。おそらく母は気にしているでしょう。

ですが、その気持ちをぐっと抑え、放ってくれた母に少年は救われます

最後、少年は今まで収集してきた蝶を、一つ一つ、自分の指で押しつぶしていきます。

そこまでする必要はないのにです。

今まで苦労して集めたものを、一つずつ壊していくさまは、悲しみが浮かばれます。

中学1年生で読んでいたら、トラウマになったかもしれません。

一方で、中学1年生だからこそ、

一度してしまったら最後、償えないものもある

ことを知るきっかけに、大切な作品だと思います。

『少年の日の思い出』以外の未読作品では、

  • 山本周五郎『鼓くらべ』
  • 森鴎外『高瀬舟』
  • 井上ひさし『握手』

が、素晴らしかったので、

国語の教科書に抵抗があった人におすすめです。

もう一度読みたい 教科書の泣ける名作 再び

もう一度読みたい 教科書の泣ける名作 再び

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 学研教育出版
  • 発売日: 2014/12/09
  • メディア: 単行本
 

調べた言葉

  • 邪智:悪知恵
  • 頑強:頑固で屈せず強いこと
  • 車軸を流す:激しく雨が降るさま
  • 奸佞(かんねい):ずるがしこく、人にこびへつらうこと
  • 韋駄天(いだてん):バラモン教の神でシヴァ神の子。足が速い人のたとえ
  • 稀代(きたい):きわめてまれなこと
  • 断続:物事がとぎれながら続くこと
  • 鞴(ふいご):火力を強くするための送風装置
  • 慄然:恐ろしさにふるえおののくさま