塔の古い写真
40歳を過ぎた主人公は、離婚し、妻子と会わず数年経っていました。
ただひとり生存を続ける意義を見出せず、毎日を惰性に生きているようなていたらくだった。
そんな主人公のもとに、映画館から封書が届きます。
映写機の葬式をあげるから、ぜひ来ないか?
主人公は大学院時代、映画館でバイトをしていました。
映画館へ行くと、当時のまま残っている塔の写真を見つけます。
主人公が当時好きだった女性、ミスミが持っていた写真でした。
ミスミの母が撮った写真で、写真の隅に「our age」と書かれています。
- 写真の塔はどこにあるか
- 「our age」の意味は何か
主人公は、当時ミスミと塔を探し回ったのですが、見つけられませんでした。
ミスミの母が書いた「our age」の意味もわかりませんでした。
ミスミは幼い頃、母親に殺されそうになったと言います。
目をつぶって線路に耳を付けているよう、母親から言われたのです。
電車が来る前に線路から離れたので死なずに済みましたが、ミスミは「なぜ母親は自分を殺そうとしたのか」と疑問に抱きます。
線路のそばに塔があったと、ミスミは言います。
現在、ミスミもミスミの母も亡くなっています。
ミスミの母は、塔の写真だけを残し、癌で死にました。
約20年経った今、主人公は、写真の塔と「our age」の意味を探ります。
私たちの時代
塔の場所や「our age」の意味にたどり着いた主人公は、
人類がどの世代においても全員が絶対的に背負うべき使命は、「伝達」である。
と結論付けます。
ミスミの母は伝達しました。
死んでしまったミスミは伝達を受けられませんでしたが、主人公は伝達を受けました。
主人公は、妻子に会いにいくかもしれません。大学教員の仕事に力を入れるかもしれません。
もう一人、伝達を受けたのは、読者である私です。
- 何を伝達すればいいか
- 何を伝達できるか
を考えます。
この作品を伝達することも、一つの価値でしょう。
小さなことを手掛かりに、ストーリーがつながっていく気持ちよさがあります。
正直、うまくつながり過ぎている気もします。フィクションを感じてしまいます。
そして、タイトルの「Our Age」。
写真に書かれているのは「our age」です。
なぜ、タイトルは大文字で始まるのでしょうか。カタカナの「アウア・エイジ」の意味は何でしょう。
写真に書かれた「our age」からタイトルを取るのであれば、「our age」もしくは「our age(アウア・エイジ)」だと思います。
- oとaが大文字
- 作中に出ていないカタカナ表記をメイン
を考えると、意味は「私たちの時代」です。
私たちとは、登場人物であり、作者であり、読者であると考えるのは、考え過ぎでしょうか。
調べた言葉
- 至宝(しほう):大切な宝
- 妙齢:若い年ごろ
- 脇息(きょうそく):脇に置いてもたれかかるための安楽道具
- 耄碌(もうろく):年を取って心身の働きが衰えること
- 達観:広い視野をもって全体を見通すこと
- 欠礼:礼儀を欠くこと
第163回芥川賞の候補作、受賞予想はこちらです。