わからないことは怖い
主人公は、中学生のときから10年以上、沖縄の資料館で資料整理をしています。
公的な資料館ではなく、補助金などの収入もありません。
知人が人知れず、情報を蓄積した場所です。
主人公は、資料の整理を無償で行っているため、他に仕事をしています。
仕事内容は、海外にいる外国人に、日本語でクイズを出すことです。
正式名称は、
『孤独な業務従事者への定期的な通信による精神的ケアと知性の共有』
「孤独な業務従事者」(外国人)がいる場所は、
- 宇宙
- 海底
- 戦場
です。
彼らに対し、主人公は沖縄の雑居ビルにある一室から、ウェブカメラを通じてクイズを出します。
主人公の主な活動場所である、
- 資料がため込まれた個人資料館
- 勤務先である雑居ビルの一室
は、実体を知らない周りの人間から怪しまれます。
資料館の所有者の娘は言います。
「わからないことは怖いんだよ、たぶん、みんな。台風といっしょで」
直接迷惑をかけていなくても、「わからない」を理由に怖がられます。
台風の後、主人公の家の庭に、「足を折りたたみ、顔を体にうずめた茶色い動物」がいました。
わからないものです。
それでも主人公は受け入れます。
わからないもの、役に立たないものに興味がある人におすすめです。
役に立たないもの
主人公の庭に来た動物は、宮古馬と呼ばれる、小さな馬でした。
かつて琉球競馬という、馬の速さではなく美しさを競う競技があったそうです。
美しい走り方を勝負の肝にする馬は、足首が細く、荷物を積むのにも向いていない。軍備の増強を進める中で、島の小ぶりな馬を交配によって大型化する政策も推し進められた。
小ぶりな馬は、役に立たなかったのです。
他にも、
- 個人資料館
- 雑居ビルの一室で行われている奇妙な仕事
は、一見すると世の中の役に立っているようには見えません。
では、役に立たなそうなものは、いらないのでしょうか。
「世の中に役に立たないものはない」と言いたいわけではありません。
役に立たずに葬り去られることは多いでしょう。
ですが、役に立たなくても当事者は卑下しなくていいと感じました。
周りの人間にとって怪しい資料館は、主人公や所有者家族の支えになりました。
雑居ビルの一室で行われている奇妙な仕事は、故郷を離れて暮らす人たちの支えになりました。
主人公は、クイズの出題を通じて知り合った人たちから、馬に関する知恵を借ります。
情報は、映像や音声だけではありません。骨のかけらも大切な情報になり得ます。
記録し続けていれば、やがてどこかで補助線が引かれ、関係ない要素同士であっても思いがけぬふうにつながっていくのかもしれない。
わからないものを受け入れることで、思考や行動に広がりが生じます。
この読書感想文も、世の中の役には立ちませんが、どこかでつながっていけばいいと思っています。
調べた言葉
- 要衝(ようしょう):敵の攻めを防ぐ、地勢の険しい場所
- 前哨:警戒・偵察のため、本隊の前方に配置する小部隊
- 長じてから:成長してから
- よるべなく:頼りにするところがなく
- 在野:官職につかないで、民間にあること
- 作為:わざと手を加えること
- エンバーミング:遺体を消毒や保存処理をすることで、長期保存する技法
- 浅黒い:人の肌の色が茶褐色をしているさま
- 悪しざま:悪意をもって見るさま
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