イメージと現実のギャップ
作家である主人公が、地元青森での会食に参加します。
編集者に誘われるまま出席した、学校長や大学教授、市議などとの会合です。
主人公は、「無料で会食料理が食えるなら」というモチベーションで参加します。
青森県はどこも財政難で、財政が潤っているのは、「六ヶ所村」だけだと知ります。
六ヶ所村は風力発電に力を入れているそうで、主人公は風力発電に興味を持ちます。
長閑な田園地帯で、煉瓦造りの塔型風車がゆっくりと羽を回している――、それはテレビで見たオランダの光景だが、六ヶ所村には似たような風景が広がっているのだろうか。
翌日、主人公は風車機を見るために、レンタカーで六ヶ所村に向かいます。
六ヶ所村で、主人公はイメージと現実とのギャップに直面します。
- 風車:都会の人工物(風車)を牧場に突き刺している
- 電力:村人口を賄える電力は、すべて大手の電力会社に売買されている
- 年収:村の施設で働いている人は、年収600万以上ばかり
などです。
主人公は村の民宿に泊まりますが、夜中に風の音
一定の間隔で響く、人間の吐息のような物音
で、目を覚まします。
食堂にいた民宿の老婆に聞いても、
おらにはなんも聞こえね
と言われます。
主人公がコンビニへ車を走らせていると、音の正体が風車機のプロペラ音だとわかります。車を降りると、風車の方向から腐臭がします。
腐臭に関心を持った主人公は、ライトを持って藪の中に入り、風車へと歩いていきます。
途中、大量の鳥の羽を見つけます。風車のふもとには、腐臭の原因である物体がありました。
ラグビーボール大の、剥き出しの臓物だった。赤黒い心臓、黄色味を帯びた肝臓、幾重にも細かな血管の筋が張り巡らされた十二指腸、暗灰色で光沢のある大腸
これは一体何でしょう。特定されないまま物語は終わります。
そばに大量の鳥の羽がありましたが、鳥の臓器の大きさの比ではないことから、鳥の可能性は低いです。
剥き出しの臓物の存在は、イメージと現実のギャップが二段階あることを示しています。
- 風車のイメージ:電力を賄う(プラス)
- 風車の現実(一段階):風車の羽の餌食になる大量の鳥(マイナス)
- 風車の現実(二段階):ラグビーボール大の臓物(不明)
電力を生み出す風車の裏では大量の鳥の死骸が発生している、にとどまらず、謎の臓物があるという二段階のギャップです。
では、この謎の臓物は何かということですが、鳥以上の大きさの動物の臓物としかわかりません。
作家が関心を持つのは、現実の世界の在りようではなく、虚構の世界の在りようなのだ。
これは、東京の家庭ゴミが青森の村に集積されていることについて、主人公が考えたことです。
それと同様、主人公の関心は、風車機による鳥の事故(現実)にではなく、謎の臓物(虚構)にあるといえそうです。
謎の臓物(虚構)の存在が、物語に深みを与えています。