いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『短冊流し』高橋弘希(著)の感想【離婚前の別居期間】(芥川賞候補)

離婚前の別居期間

主人公は、自分の不貞(不倫)の約1年後、妻から離婚を切り出されます

5歳の娘がいて、妻は妊娠8か月でした。

妻は、主人公に言います。

半年間の別居をして、その後、正式に離婚したい

5歳の娘のために、妻は半年間の猶予期間を設けたようです。

主人公は娘と暮らし、妻は生まれてくる子と暮らす予定です。

母親と父親が別々に住むことに、少しずつ慣らして、お互いの生活に問題が生じなければ、正式に離婚する

ただ主人公は、妻との別居を、娘にどう説明していいか、見当がつきませんでした。

本当のことを言えるはずがないと主人公は思っていましたが、娘の瞳を見て嘘をつけなくなります

パパとママは、しばらくは別々に住んでみようと思うんだ。少し仲が悪くなってしまってね

泣くと思っていた娘に、質問されます。

パパとママは、ケンカしちゃったの?

娘は、

  • 幼稚園の園児とケンカしたこと
  • 相手が謝って自分も謝って、仲直りしたこと

を話します。だから、2人も謝って仲直りしてよと言わんばかりに。

この後のやりとりが描かれていないので、主人公がどう反応したかわかりません。おそらく、そうだよねと肯定しつつ、話を濁して終わったのだと想定できます。

別居後、主人公と娘は、月に1度、妻に会います

娘に対して妻は微妙に距離を取ります。主人公は、

月に一度しか逢えないんだから、べったり甘えさせてあげればいいだろう

と言いますが、妻は、

この先は月に一度も逢えなくなるんだから、そんなことをしたら余計にかわいそうでしょう

と言います。まっとうな返しです。

別居して3か月経ち、主人公は妻のいない生活に慣れてきます

娘は、おねしょの回数が増え、両目を強くつむることが多くなり、多少の怪我で大泣きするようになります

妻の不在に慣れる主人公と、母の不在に耐えきれない娘(表向きには問題がないように見えます)。

そして、離婚に向けた別居期間の終了間際、娘は高熱を出して入院します

入院後、妻も娘のお見舞いに行きます。

娘は入院、妻は別居で、主人公は家で一人なのに、主人公は朝食の目玉焼き用に卵を3個割ってしまいます。娘を保育園に送る必要がないのに、保育園を通るルートで通勤してしまいます

娘の入院は、妻との別居や離婚が直接影響しているわけではありません。ですが、全く関係ないかというと、そうとも言い切れません。

もし、主人公が不貞を働いていなければ、妻が別居や離婚を申し出なければ――。結末は変わったかもしれないと、思ってしまいます。

妻との関係がこれからどうなっていくのか、気になります。

別居前の話し合いの「お互いの生活に問題が生じなければ、正式に離婚する」が有効なら、主人公の生活に問題が生じているので、離婚はできないはずです。一方で、娘の死で、問題が解決したとも言えます。

離婚は成立し、お互い別々の人生を歩むでしょう。それは新たなスタートとして祝福すべきことなのでしょうが、登場人物の誰も幸せになっていない未来のような気がして、読後感はあまり良いものではありませんでした。

調べた言葉 

  • パステルカラー:桜色や藤色のように白色が混ざったような淡い色彩

表題作『スイミングスクール』の感想はこちらです。