いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『スマホ時代の哲学』谷川嘉浩(著)の感想【他人の頭を借りて考える】

他人の頭を借りて考える

難しかったです。

何が難しかったというと、私は結局どうしたらいいのか、わからなかったからです。

私は本(特にビジネス書)を読むとき、自然と「答え」を探していると、気づきました。

  1. 本に書かれた「答え」を読む
  2. 納得して「行動」する(納得しなければ「行動」しない)

本に、何かしらの行動を促すための役割を期待して、読んでました。

本書を読んで、行動を促す役割を期待して本を読むのは、違うのかもしれないと考えました(そういう結論に至るのも、一種の行動かもしれませんが)。

要は、必ずしも行動しなければいけない、わけではないと思いました。

哲学について。

人は、人生のどこかで立ち止まることが必ずあります。(中略)生きていく上で、行き詰まり、動けなくなることは、たぶん避けられません

(中略)こういう行き詰まりを抱えたとき、哲学は支えになります

私は立ち止まってるし、行き詰まりを抱えてるから、本書を手に取りました。

例えば仕事について、行き詰まりから抜け出せる、何か取っ掛かりを得たかったです。

哲学するとは、プラトンに始まる一連の会話に参加することだと私は考えています哲学は、ただ考えることではなく、連綿と続く知の巨人たちの言葉を聴きながら考えることなのです

哲学は、2500年分の思索の軌跡だと言います。

自分の頭で考えるというより、他人の頭を借りて考える手ぶらではなく、手がかりを使って考える他者の力を使って考えることの楽しさや有用性を、この本を通じて体感してもらいたいと思っています

「他者の力を使って考えることの楽しさや有用性」は、本書で体感しました。

本書では、哲学者だけにとどまらず、文学作品やアニメなど、必要なものを総動員させて、谷川さんの主張が書かれてます。

それは、谷川さんが、他者の力を使って考えてるからだと思いました。

前提知識として、他者の力(哲学、文学、音楽、映画、アニメ等)に、精通しています。

人生で立ち止まったり行き詰まったりしてるときに、他者の力を総動員できたら、どれほど頼もしいか、本書で体感しました。

同時に、谷川さんの知識の豊富さや取り出し方に、驚きました。

超人のように感じましたが、

私は黒歴史が多いというか、恥ずべき過去もある人なので、定期的に「ウッ……」ってなりながら生きています

と書かれており、注釈で、その一端を『鶴見俊輔の言葉と倫理のあとがきで自己開示してると書かれてたので、そちらも読もうと思います。

スマホ時代について。

スマホ時代に必要なのは孤独と孤立であり、それらがあってこそ、自分を浸している感覚に耳を澄ませ、衝撃的な体験(強い情動体験)と折り合いをつけていくことができます。そのときに動いているはずの感情のしっぽを捕まえ、それが指し示す先をまなざすために、私たちには孤独(自己対話)が必要です

スマホで退屈を埋めたり、誰でもいい誰かとつながったりで、孤独や孤立を一時的に覆い隠すことは、避けるべきだとは、なんとなくわかります。

一方で、つまらない仕事でも給料をもらえるからと続け、休みには本やアニメで現実(仕事)から目を逸らしている今の私と、似てると思いました。

本を読んでるのは、現実の問題(つまらない仕事を続けるのか)に直視してる気になれるからかもしれません。

本を読んでも、考えてるだけで、行動(退職、転職等)には移せてません。

ですが、行動は伴ってなくても、自己対話のために関連書籍を読むのは、悪いことではないと考えました。

ただ、自己啓発には警鐘を鳴らしてるようです。

自己啓発には、「自分の力だけが自分を変え、自分の力によってなりたい自分になることができる」という信念が前提として隠れています

(中略)これは個々人の状況を自己責任化する呪いでもあります。状況が好転しないのは、あなたが変わっていないのが悪い(中略)という含みが生まれるからですたとえ問題の原因が各人の外側にあったとしても、ハイテンションに状況に立ち向かう「理由」を自己啓発を与えてしまうのです

私にとって、今の仕事の嫌な部分に「理不尽さ」があります。

例えば、理不尽なクレームや業務分担です。

  • 話の通じない相手と話し続けなければいけない
  • こちらの状況を考慮されず仕事を一方的に押し付けられる

これらは自己啓発ではどうにもならなそうです。

理不尽なクレームも業務分担も、仕事だから仕方ないと割り切れないから、悩んでるわけです。

誰かに相談したときに、「それが仕事というものですから」と言われたら、その人に対して嫌悪感を抱くでしょうし、辛い状況は変わりません。

問題の原因は、理不尽なクレームを言う人間であり、理不尽な業務分担をする人間でしょう。

これをどうやって解決するかと考えても、私にはどうにもできないから、仕事が嫌になってます。

もう、私にはどうすることもできないのか。

  • 「あなたと話しても埒が開かないから席を外します」と言ってはいけないのか
  • 「この仕事はやりきれないので他の方にお願いします」と言ってはいけないのか

言っていけないことではないでしょうが、言った後のことを想像すると、ブレーキがかかります。

言ったところで、状況は悪化すると思うからです。

クレームを言う人間はヒートアップするでしょうし、新たに業務を請け負った人は、私に嫌味の一つでも言いたくなるでしょう。

なので、黙ってクレームを受け流し、与えられた仕事を淡々とこなします。

それで休みには、本やアニメで時間をつぶす。

束の間の休みが終わったら、仕事が始まります。問題は変わらず残っています。

このままではいけないと思っても、どうしたらいいのかわからないまま、何もできてないのは、余暇時間にスマホで退屈さや寂しさを埋めてる人と変わらない気がしました。

できることはないのか。

他人の頭を借りて考えるために、本を読み続けようとは思いました。