いっちの1000字読書感想文

平成生まれの社会人。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『百の夜は跳ねて』古市憲寿(著)の感想【鼻につく窓拭きの青年】(芥川賞候補)

死と隣り合わせの仕事

 前作『平成くん、さようなら』では、安楽死を望む青年の話でした。

 本作の主人公は、窓拭きの仕事をしている青年です。

 青年の耳には、死んだ先輩の声が聞こえます。こんなふうに。

そこで生まれてはいけないし、死んではいけない。そんな島があるって知ってるか。(p.50)

 先輩は、仕事中にロープが切れて死にました。それを期に、主人公は吹っ切れます。

逆にあの事故の日から、高いところが大丈夫になったんです。死ぬかもしれないってのがずっと怖かったんですけど、本当に死ぬんだってことがわかったから。もう死んでいるのと同じなんだって確かめられたんで、逆に安心したっていうか(p.95)

 本当に死ぬとわかることが、どう、死んでいるのと同じなのでしょう。

 以下に興味がある人におすすめです。

  • 窓拭きの仕事(ブルーカラー)
  • 現代的
  • 生と死
  • 見る側と見られる側
  • 裕福と貧乏
百の夜は跳ねて

百の夜は跳ねて

 

一言あらすじ

 窓拭きの仕事をする青年は、タワーマンションに住む老婆から、他の部屋の写真を撮るよう依頼される。大金をもらう代わりに、青年は盗撮する。

 

主要人物

  • 翔太:窓拭きの仕事をする23歳の青年
  • 老婆:翔太に他のマンションの部屋の記録を依頼する

 

タイトルの意味がわからない

 第161回芥川賞候補の作品で唯一、タイトルの意味がわかりませんでした。

  • 百の夜
  • 跳ねて

 何を示すのか掴めません。

 冒頭の「生まれても死んでもいけない島」に、夜が続く時期があるらしく、それを「百の夜」としても、翔太の住む東京とリンクしません。

 「跳ねて」というのも、誰がどう跳ねるのか、わかりませんでした。

 

見る側と見られる側

オフィスビルで働く労働者やタワーマンションの住人は、僕たちのことをおそらく人間だと思っていない。(p.53)

 窓を隔てた向こう側の人(マンションの住人)は、清掃員の存在を気にしません。

 しかし老婆は、窓拭きをしている翔太にアプローチします。

 誰からも見られていない翔太を、老婆は見つけてくれました

 

鼻につく窓拭きの青年

 翔太は、自分を特別だと思うふしがあります。

  • 死者の声が聞こえる
  • 窓拭きの仕事中に部屋を盗撮する 

 実は自分だけではありませんでした。

 自分だけ、という感じはプライドの高さをうかがわせます。

 今は窓拭きしているけど、本来はもっと特別な仕事をすべき人間というように。

 翔太は、窓拭きの仕事や同僚を下に見ていますし、高層マンションに住む人のことも馬鹿にしています。

 平成くんは、自分の弱みをさらけ出す部分もありましたが、翔太にはありません。

 精神的に上に立っているような態度が鼻につきました

百の夜は跳ねて

百の夜は跳ねて

 

調べた言葉

目ざとい:見つけるのが早いこと

平叙:ありのままを述べること

横着:ずうずうしいこと

 

 地の文と会話の間に、死者との対話が入るという点で、若林正恭さんのエッセイ『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』を思い出しました。

 一人でキューバを旅行していますが、亡き父と対話しています。

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

 

 第161回の芥川賞候補作についてはこちらです。