閉じ込められた世界
主人公は、広大なホテルの中をさまよいます。
どんなに歩いても、
- 廊下が一直線に続き、
- 部屋のドアがずらっと並び、
- 螺旋階段が上下に伸びています。
ホテルの外へは出られません。
部屋のドアを開けると、ベッドがあったり、バーや資料室があったりします。
その閉じた世界で、主人公は歩き続けます。
すると、光が射します。
光をたどっていくと、広い空間に出ます。
その空間には、光で調節された昼と夕方と夜があり、10階建てのホテルが建っていました。
無限空間のホテルの中にある、有限のホテルです。
主人公はその空間で、自分の世界を造ろうとします。
以下に興味がある人におすすめです。
- 没頭
- 閉じ込められた世界
- 独自の世界観
一言あらすじ
主人公は外に出られないホテルをさまよっている。すると、広大な空間に10階建てのホテルを発見する。無限の空間にある有限のホテルで、新たなコミュニティを造る。
主要人物
- 光:10階建てのホテルの支配人
- 言海(ことみ):架空の獣を造っている
没頭すること
光は、無限の空間で見つけた10階建てのホテルに、人を連れてきます。
連れてこられた人たちは働き、光に感謝します。
今日はどうやって時間を潰すべきか、どこを歩き廻りどの程度へとへとになればいいのか、悩まなくてもよくなりました。朝になったら仕事を始め、夜になったら眠ればいいのです。(p.58)
連れてこられた人たちは、
- ホテルでの仕事に没頭し、
- 架空の川や動植物を造ることに没頭します。
閉じ込められた世界で、自分なりの空間を造っていきます。
その没頭に対し、光は次第に冷めた目で見るようになります。
ここで夢中になっているのは所詮、子供の好む砂場遊びのようなものなのだ。砂の城を拵えてみたところで城主になれるわけがない。(中略)だが、認めたくはなかった。(p.154)
閉じ込められた世界にいるのだから、没頭したって無駄ではないかと悩みます。
壺の中で没頭する
光とは対照的に、言海(ことみ)は架空の獣を造り続けます。
そして、開かれた空間に、放ちます。
造りものの空、川、動物たちが交わる世界です。
光は、閉じ込められた空間で何をやっても無駄だと頭を悩ませますが、無駄ではないこととは何でしょう。
この世界で生きるのは、虚構の中で生きているとも言えるのではないでしょうか。
地球という大きな壺に閉じ込められているのではないかと。
そこに閉塞感を抱き続けるか、何かに没頭するか。
閉塞感を抱いたとしても、没頭した方がいいと感じました。
独自の世界観を味わいながら、現実を垣間見る作品です。
調べた言葉
壺中(こちゅう):つぼの中
往なす:軽くあしらう
憂い:心配、不安、憂うつ
寓意:他の物事にかこつけて、それとなくある意味をほのめかすこと
焦慮(しょうりょ):あせっていらだつこと
反古(ほご):書き損じて不要になった紙
欣喜雀躍(きんきじゃくやく):すずめがおどるように、こおどりして喜ぶこと
大言壮語(たいげんそうご):自分の力以上の大きなことを言うこと
砂上の楼閣:実現不可能な計画のたとえ
生殺与奪:すべて自分の思いのままであること
煩悶(はんもん):あれこれと悩み苦しむこと
無辺際(むへんさい):広大ではてしのないこと
陶然(とうぜん):心を奪われてうっとりするさま
倦む(うむ):飽きて、いやになる
日月星辰(じつげつせいしん):太陽と月と星
睥睨(へいげい):横目でにらみつけること
望外:望んでいた以上であること
躍然(やくぜん):いきいきとしたさま
気炎:燃え上がるように盛んな意気