いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『壺中に天あり獣あり』金子薫(著)の感想【閉じ込められた世界で没頭する】(三島賞候補)

閉じ込められた世界

 主人公は、広大なホテルの中をさまよいます。

 どんなに歩いても、

  • 廊下が一直線に続き、
  • 部屋のドアがずらっと並び、
  • 螺旋階段が上下に伸びています。

 ホテルの外へは出られません

 部屋のドアを開けると、ベッドがあったり、バーや資料室があったりします。

 その閉じた世界で、主人公は歩き続けます。

 すると、光が射します。

 光をたどっていくと、広い空間に出ます。

 その空間には、光で調節された昼と夕方と夜があり、10階建てのホテルが建っていました。

 無限空間のホテルの中にある、有限のホテルです。

 主人公はその空間で、自分の世界を造ろうとします。

 以下に興味がある人におすすめです。

  • 没頭
  • 閉じ込められた世界
  • 独自の世界観
壺中に天あり獣あり

壺中に天あり獣あり

 

一言あらすじ

 主人公は外に出られないホテルをさまよっている。すると、広大な空間に10階建てのホテルを発見する。無限の空間にある有限のホテルで、新たなコミュニティを造る。

 

主要人物

  • 光:10階建てのホテルの支配人
  • 言海(ことみ):架空の獣を造っている

 

没頭すること

 光は、無限の空間で見つけた10階建てのホテルに、人を連れてきます。

 連れてこられた人たちは働き、光に感謝します。

今日はどうやって時間を潰すべきか、どこを歩き廻りどの程度へとへとになればいいのか、悩まなくてもよくなりました。朝になったら仕事を始め、夜になったら眠ればいいのです。(p.58)

 連れてこられた人たちは、

  • ホテルでの仕事に没頭し、
  • 架空の川や動植物を造ることに没頭します。

 閉じ込められた世界で、自分なりの空間を造っていきます。

 その没頭に対し、光は次第に冷めた目で見るようになります。

ここで夢中になっているのは所詮、子供の好む砂場遊びのようなものなのだ。砂の城を拵えてみたところで城主になれるわけがない。(中略)だが、認めたくはなかった。(p.154)

  閉じ込められた世界にいるのだから、没頭したって無駄ではないかと悩みます。

 

壺の中で没頭する

 光とは対照的に、言海(ことみ)は架空の獣を造り続けます。

 そして、開かれた空間に、放ちます。

 造りものの空、川、動物たちが交わる世界です。

 光は、閉じ込められた空間で何をやっても無駄だと頭を悩ませますが、無駄ではないこととは何でしょう

 この世界で生きるのは、虚構の中で生きているとも言えるのではないでしょうか。

 地球という大きな壺に閉じ込められているのではないかと。

 そこに閉塞感を抱き続けるか、何かに没頭するか。

 閉塞感を抱いたとしても、没頭した方がいいと感じました。

 独自の世界観を味わいながら、現実を垣間見る作品です。

壺中に天あり獣あり

壺中に天あり獣あり

 

調べた言葉

壺中(こちゅう):つぼの中

往なす:軽くあしらう

憂い:心配、不安、憂うつ

寓意:他の物事にかこつけて、それとなくある意味をほのめかすこと

焦慮(しょうりょ):あせっていらだつこと

反古(ほご):書き損じて不要になった紙

欣喜雀躍(きんきじゃくやく):すずめがおどるように、こおどりして喜ぶこと

大言壮語(たいげんそうご):自分の力以上の大きなことを言うこと

砂上の楼閣:実現不可能な計画のたとえ

生殺与奪:すべて自分の思いのままであること

煩悶(はんもん):あれこれと悩み苦しむこと

無辺際(むへんさい):広大ではてしのないこと

陶然(とうぜん):心を奪われてうっとりするさま

倦む(うむ):飽きて、いやになる

日月星辰(じつげつせいしん):太陽と月と星

睥睨(へいげい):横目でにらみつけること

望外:望んでいた以上であること

躍然(やくぜん):いきいきとしたさま

気炎:燃え上がるように盛んな意気