人間をやるのが下手
『人間』というタイトル、強烈すぎます。
主人公も人間だし、登場人物もみな人間です。
では、このタイトルにある『人間』は、何を指すのでしょう。
自分を含めて僕達は人間をやるのが下手なのではないか。人間としての営みが拙いのではないか(p.292)
いわば、人間失格です。
主人公は、太宰治の『人間失格』をバイブルにしています。又吉さんも同様です。
又吉さんは、自身における『人間失格』を書こうとしたのもしれません。
そして、失格でもいいと許してあげる。自分のことや、登場人物のことを。
だから、『人間失格』ではなく、『人間』なのでしょう。失格ではありませんから。
以下に興味がある人におすすめです。
- 生きるのが下手な人
- 失敗ばかりしてしまう人
- 夢に挫折した人
- 自意識過剰
一言あらすじ
主人公は、何者かになろうと漫画家を目指していたが、その描いていた何者かには遠く、38歳の誕生日を迎えた。届いたメールをきっかけに、学生時代を振り返る。
主要人物
- 永山:学生時代に作品を出版した。文章やイラストで生活している38歳
- 影島:芸人で芥川賞を受賞。かつて永山と同じシェアハウスに住んでいた
自分の作品が他人のアイデアだったら
19歳の永山は、芸術家を目指す人たちが集まるシェアハウスに住んでいました。
そこの住人で開いた作品展で、永山の作品『凡人Aの罪状は、自分の才能を信じていること』が編集者の目に触れ、出版に至ります。
出版後、編集者に言われます。
『凡人A』ってさ、永山くんが考えたんだよね?(p.72)
永山は、宙に浮いたような感覚になります。
本を出版することで、永山はシェアハウスに住む人たちを出し抜いています。
しかし、それが他人のアイデアだったとしたら?
しかも、自分より劣っていると思っていた人のアイデアだったら?
その数年後、シェアハウスに住んでいた人間が死んだことがわかります。詳細は書かれていません。葬儀という言葉が出てきただけです。永山にとって大きな出来事だったはずなのに、言及されていません。それだけに怖いです。
人間をやるのが下手でない人
人間をやるのが下手な人ばかり登場しますが、唯一の例外がいます。
人間が何者かである必要などないという無自覚な強さを自分は両親から譲り受けることはできなかった。
(中略)
自分は人間が拙い。だけど、それでもいい。(p.364)
永山の両親です。二人を見て、永山は自分の拙さを許します。
これを言ったら嫌われないかな、馬鹿だと思われないかな、傷つけてないかな、などと考えると、辛くなります。
とはいえ、構わず自分の好きなように、なんて難しいです。
調べた言葉
芳名録:冠婚葬祭などで、参加者に氏名と住所を記載してもらう名簿
歯が浮く:軽薄なお世辞などを聞いて、不快な気持ちになる