選考委員が絶賛
新潮新人賞、三島由紀夫賞のダブル受賞です。
新潮新人賞を受賞したときに、一度手に取りましたが、冒頭で読むのをやめました。
理由は、
- 4歳の少女視点なのに、達観した言葉づかい
- 4歳の少女視点なのに、父母を名前で表記(「父は」ではなく、「久美子は」と表記)
が気になり、物語に入り込めなかったからです。
選評で鴻巣友季子さんが書いています。
四歳の子がこんなに明敏にものを解せる、こんなに精密に記憶していられるかという信憑性の問題。(選評より)
まさにそうです。そう言いながらも、
大人になった語り手が後の洞察と思索から、超越的な視点で仮構した過去であることがわかってくる。不信を覚えず読み切り、○をつけた。傑作である。(選評より)
と締めくくっています。
新潮新人賞、三島賞の選考委員は、合わせて10人です。
その10人で、受賞に積極的でなかったのは、2名だけでした。(田中慎弥さん、平野敬一郎さん)
とはいえ、その2名は、強く反対しているわけではありません。
それに、三島賞の他の候補は、素晴らしい作品ばかりでした。
- 岸政彦『図書室』
- 金子薫『壺中に天あり獣あり』
- 宮下遼『青痣』
これらを超えるほど評価される作品なのかと思い、再度手に取りました。
以下に興味がある人におすすめです。
- 差別
- 田舎の人間関係
- 政治運動
- 細かな描写
一言あらすじ
4歳の少女が、1980年代に田舎で過ごした出来事を、大人になった視点を交えて描く。差別、叔母の結婚、政治運動などをめぐる、家族や地域社会の物語。
主要人物
- 私:奈々子。4歳の視点と大人の視点が混ざり合う
三人称視点の方が読みやすい
結論から言って、上記で挙げた三島賞候補の3作品の方が良かったです。
本作は、一人称の視点(私は、)で描かれることに、最後まで違和感がありました。
4歳の「私」が冷静で、少女とは思えない客観性を持っています。
三人称視点(奈々子は、)であれば、もう少し読みやすかったのだと思います。
鴻巣さんの選評にある「超越的な視点で仮構した過去」だからこそ、三人称の方がしっくりくるのです。
とはいえ、選考委員の方々が絶賛しているのですから、私の読みが足りないのは確実です。
細かな描写も巧みで、南大阪の風景が目に浮かびます。登場人物が多いのに、人物がうまく描き分けられています。
ですが、作品を読んで心を動かされませんでした。私が田舎のムラ制度で育っていないからかもしれません。
タイトルの「いかれころ」は、踏んだり蹴ったりという方言らしいです。
ぜひ、多くの人に読んでもらって、感想を聞きたい作品です。
調べた言葉
たけだけしい:しぶとい
扇情:欲望をあおり立てること
横着:ずうずうしいこと、楽をしてすますこと
厳然:厳そかで近寄りにくいさま
厭わしい:いやな気持だ
そこはかとない:どこがどうというのではなく、そう感じられるさま
釣書:縁談の際などに取り交わす身上書
かいがいしい:きびきびと立ち働くさま
強情:人の言葉を聞き入れず、自分の考えや行動を押し通そうとすること
野卑(やひ):下品でいやらしいこと
しおらしい:ひかえめでおとなしい