介護と戦争がリンク
主人公は35歳の介護福祉士で、病院に勤めています。
入居者の老人が、女性の身体に触れたり、暴力をふるったりすることに、苛立っていました。
老人が暴れたとき、主人公は力で抑えます。
そして、相手を暴力で封じ込むことに味をしめます。
どうしてこんな歳になるまで気が付かなかったのだろう。こんなに簡単なことならば、もっと早くからやっておけば良かった。(p.30)
老人は主人公を恐れます。
老人は夜にうなされていました。
「しかたないんや」
(中略)
「へいたい、の」(p.33)
老人は、戦争中に兵隊だったのかもしれません。
何が「しかたない」のか、主人公は追求していきます。
また、戦争のことを調べ始めます。
- 老人が戦時中に暴力で服従させたこと
- 主人公が介護の名のもとに暴力で老人を抑えること
がリンクします。
以下に興味がある人におすすめです。
- 介護
- 戦争
- 暴力
- 働くこと
一言あらすじ
介護福祉士の主人公は、暴れる老人を力で抑えつけたことに味をしめる。暴力で相手を封じることを、職場のパートや家族に展開していく。
主要人物
- 興毅:主人公。病院で働く35歳の介護福祉士
- 89:89歳の老人。89歳になっても人間ができていないから、興毅が名付けた
何が仕方ないのか
老人(89)の「しかたないんや」は、興毅の暴力とつながります。
ですが、興毅の力で抑えつける行為は、仕方ない範囲を超えています(必要な力以上で抑えつけます)。
だからこそ、興毅は89の言う「しかたない」を疑います。
本当に仕方なかったのか? したかったのではないか?
戦時中に仕方なく行われたこと(仮に性暴力)は、仕方なかったのでしょうか。
- 戦時中に行われたこと
- 暴れる老人を、介護の名のもとに力で抑えつけること
- 働くこと
は、仕方がないのでしょうか。
仕方なく働く
この病院で、働きたくて働いている人はいません。
社員もパートも、仕方なく働いています。
興毅は、結婚相手に働くことを求めます。
働いて、子どもを産んで、家事をして、子どもを育てて、働いて。そこまでしてくれよと興毅は思う。俺だってする。手伝うなんて言い方もしない。(p.24)
結婚して子どもを産んだ妹は、働いていなく実家住まいです。
興毅は妹に言います。
働いて、働いて、働いて家事もせいや。出来るわ。皆やっとんじゃ。(p,51)
働く苦しみをお前も味わえと言わんばかりです。
昔でいう戦争が、現代の労働です。
- 男女平等が浸透していながら女性が働かない
- 何故自分だけが苦しい思いをしなければならないのか
と、興毅は苛立ちます。
閉塞感しかない環境が、リアルに描かれます。
調べた言葉
しばたく:しきりにまばたきをする
もうろく:老いぼれること