大阪の街と若者のやるせなさ
繁華街から少し離れた大阪の街が舞台です。
俺たちが暮らしているのはコンビニとドンキとパチンコと一皿二貫で九十円の格安の回転寿司でできた世界で、そういうところで俺たちは百円二百円の金をちびちびと使う。(p.45)
そこで暮らす人たちに、名前はありません。
- タクシー運転手の男
- 水商売の女
- 清掃員の男
- コンビニ店員の男
- ガールズバーの女
- 工場の日雇い派遣の男
- 美容師の女
- 部屋にこもる女
視点が次々と切り替わります。
断片で切り取ったシーンを、パッ、パッと見ている感じです。
時間軸や視点が変わっていくので、
いつの、誰の、何の話なんだろうという感覚を抱きます。
主人公はいないし、わかりやすい物語の構造はありません。切り替わっていく視点は、別人なのか、同一人物なのか、はっきりしません。
ですが、大阪の街や、そこに住む裕福でない若者たちのやるせなさが、印象に残ります。
例えば、
- 部屋やエレベーターにある、カップ麺
- 透明のビニール傘
- 大人に抵抗できず受け入れること
- 何事もなかったかのような別れ
などです。
以下に興味がある人におすすめです。
- 切り替わる視点
- 繁華街から離れた大阪の街
- 若者のやるせなさ
一言あらすじ
大阪の街に住む若者たち。ありきたりな出会いと別れ。死は隣り合わせにある。裕福でないながらも、今日一日を生きていく。
主要人物
- 俺:工場の日雇い派遣で働く
- 私:美容院では働いていたが辞めて、ガールズバーで働く
大人に抵抗できず受け入れる若者
美容師の若い女は、人間関係を重視するあまり、感情を押し殺します。
こういう仕事でいちばん大事なのは、技術でもないし、お客様の相手でもない。大事なのは、職場の人間関係だ。私たちは居場所を失ったら生きていけない。(p.60)
若者は立場的に弱いです。
上司やお得意様からの誘いを、断れないこともあるでしょう。
美容師の女は、オーナー(40歳くらいの女)と仲良くしている中年男の誘いを断れず、帰り際、強引にキスをされます。
それを知ったオーナーは、嫌がらせなのか、美容師の女の彼氏と、抱き合います。
目撃した美容師の女は、彼氏も立場的に弱いから断れなかったのではと、推測します。
結局、何も言わないまま、美容師の女は仕事を辞めてしまいます。
なぜなら、
- 何事もなかったことにはできず、
- オーナーや彼氏にはっきりと伝えられなかったからです。
どうしようもないことをどうしようもないものとして、受け入れていく。
それができれば、うまくいくのかもしれません。
ですが、簡単ではありません。良いかどうかもわかりません。
居場所をとるために我慢するか、我慢せずに居場所を離れるか、やるせないです。
調べた言葉
- 詰所(つめしょ):従業員が集まって待機している所
- 飯場(はんば):土木工事の現場で働く人の宿泊所