いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

『四時過ぎの船』古川真人(著)の感想【認知症の祖母と無職の孫】(芥川賞候補)

認知症の祖母と無職の孫

長崎の島を舞台に、

章ごとで、視点が交互に変わります。

  • 認知症の祖母の視点
  • 無職の孫の視点

また、語られる時間軸は同じではありません。

  • 祖母の視点:孫が中学一年生
  • 孫の視点:孫が30歳直前

よって、語られる内容も異なります。

  • 祖母の視点:中学一年の孫が一人で島に来る
  • 孫の視点:30歳前の孫が家族で島に来て帰る(祖母は亡くなっています)

孫の家族は、

  • 盲目の兄

です。祖母の家を片付けるため、島に来ました。

タイトルの「四時過ぎの船」は、

  • 中学一年生の孫が、一人で島に来る船
  • 30歳前の孫が、家族で島から出る船

にリンクしています。

登場人物は、『縫わんばならん』と同じ一族です。

先に『縫わんばならん』を読んでいた方が、家系図が浮かびやすいですが、

読んでいなくても理解できます。前作より格段に読みやすいです。

以下に興味がある人におすすめです。

  • 思い出すことと忘れること
  • 30歳近くで無職でいること
  • 生きることのわずらわしいさ
四時過ぎの船

四時過ぎの船

  • 作者:古川 真人
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/07/31
  • メディア: 単行本
 

一言あらすじ

認知症の祖母と無職の孫が、時間軸が異なる島での出来事を交互に語る。祖母は「四時過ぎの船」で島に来る中学一年生の孫を迎え、30歳前の孫は「四時過ぎの船」で島を出ていく。

主要人物

  • 佐恵子:認知症になった老婆。島に住む
  • 稔:中学一年のとき島に一人で行く。30歳手前、兄の介護の名のもとに無職
  • 浩:全盲。弟の稔の介護を受ける。システムエンジニア

生きるのはやぜらしか

やぜらしか」は方言です。祖母の口癖だったと、孫の稔は思い出します。

たぶん、煩わしい、とかそんな意味なんやろう。うざったいっていう感じのことばやろうか? いや、ばってん、なんやろうな。もっと、忌々しい感じのときに思わず口に出ることばやもんな……(p.23)

稔は、兄の介護をしたあるとき、「やぜらしか」と感じたことを思い出します。

一方で、介護を言い訳に、働かず30歳手前まできたことを、

おれはこれからどうなるんやろう?

と問います。

ですが、解決に向けて何をするわけでもありません

周りからは、盲目の兄の介護をする大変さを同情されるものの、

稔は、介護を言い訳にした無職だと言い切っています。

さらに、稔が「やぜらしか」思いをするのは介護だけではありません。

生きていれば、

  • 怪我、病気
  • 転職
  • 災害
  • 結婚
  • 家族の死

など、いちいち「やぜらしか」を感じるだろうと思っています。

「やぜらしか」を感じないのは、子どもと死んだ者だけです。

死んだ祖母は、「やぜらしか」を感じないでしょう。

兄との会話で、忘れていた祖母との記憶を思い出していくうち、

「おれはこれからどうなるんやろう?」

という考えに、変化が生じます。

その思考の変化が、稔の成長を表します。 

四時過ぎの船

四時過ぎの船

  • 作者:古川 真人
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/07/31
  • メディア: 単行本
 

調べた言葉

  • 暗闘:ひそかに陰で争うこと
  • 調度品:日用品
  • あばら家(や):荒れ果てた家
  • 詮(せん)ない:無意味だ
  • 去来:行き来
  • 浮桟橋(うきさんばし):水の増減に従って自在に上下するようにした桟橋
  • 網元:多くの漁師を使って漁業を営む人
  • 雑念:集中を妨げるさまざまな思い
  • 符牒(ふちょう):しるし
  • 捨て鉢:やけになること
  • 残響:音が鳴りやんだ後も、反射して消え残る音響
  • 往生:困り果てること