耳を傾けてしまう変わった話
- 「タイマイ」とは、ウミガメの一種である亀、
- 「異聞(いぶん)」とは、変わった話、珍しい話のことです。
「タイマイ」が関わる、変わった話です。
変わった話とはいえ、何か大きな出来事が起こるわけではありません。
酔っ払った初対面の人間が話す、知らない女の子の話です。
知らない女の子の話なのに、なぜか聞けて(読めて)しまいます。
主人公は、旧友と二人でお酒を飲んでいました。そこに、旧友の高校の同級生が合流します。
旧友の同級生と主人公は、初対面です。
旧友は、翌日の仕事に備えて帰りますが、主人公は、旧友の同級生とバーへ行き、飲み過ぎた二人は公園で休みます。
話のメインは、旧友の同級生の「知人の女の子」ですが、
- 旧友の、
- 同級生の、
- 知人(女の子)
ですから、主人公からは遠い存在です。
主人公は、旧友の同級生に良い印象を持ちません。
この男と話すうえで生まれる妙な距離感が嫌いなのだ。
嫌いなら帰ればいいのに、主人公は、旧友の同級生の話に付き合います。
なぜなのでしょう。主人公は、旧友の同級生のどこが嫌いなのか、考えていました。
いかに自分がこの男とは違うのか、おなじようなことを考えていない人間なのかを、おれ自身が納得したいかっていうだけなんだ。
(中略)
内心じゃ相手と自分のあいだに絶対の壁を作ったうえで、表には出さずになんなりとその場をやり過ごしていくっていう、この態度も嫌いなんだ。だから、そうなんだよ、おれがおれを嫌いになってるんだよ。そして、そういうふうな状態に仕向けたのがこの男だから、嫌いなんだ。
嫌いでも、主人公は、旧友の同級生が話す「知人の女の子」を話を聞きます。
知人の女の子は、「タイマイ」を拾った子でした。
「タイマイ」の発見は、地元でニュースになりますが、知人の女の子は、両親の離婚真っ只中だったため、「タイマイ」どころではありません。
知人の女の子は、合コンで元バンドマンと出会い、同棲します。
元バンドマンは、一年間だけ教員をしていましたが、鬱で学校に行けなくなり、ニートです。
ニートである元バンドマンは、知人の女の子の家で主夫をしながら、アフィリエイトで生計を立てようとします。
元バンドマンは、ブログを書いた経験があり、知人の女の子が発見した「タイマイ」に関する記事も書いていました。
元バンドマンの書いた「タイマイ」のブログ記事を、知人の女の子が読みます。
奇跡です。だからって、主人公(読者)は何を思えばいいのでしょう……。
主人公は、知人の同級生の話の、切りがいいところで立ち上がろうと思うのですが、立ち上がれません。それどころか、話を広げるような質問さえしてしまいます。
知人の同級生の話は、再開され――
読者の私も、最後まで読んでしまうのでした。