相手を立てる謙虚さという人間的魅力
本書は「大家さんと僕」の続篇ではありません。
- 番外編の漫画
- 寄稿
- 対談
- インタビュー
と、ファンブックのような印象を受けました。
正直、続篇じゃないのか……と思いましたが、読んで良かったです。
特に良かったのが、「手塚治虫文化賞」の授賞式での矢部さんのスピーチです。全文掲載されておりますが、中でも良かった箇所を抜粋します。
僕はいま40歳で、38歳のときに漫画を描き始めました。38歳で漫画家になると言ったら、普通は周囲が全力で止めると思うのですが、僕の場合は、「作品にした方がいいよ」と言って下さる方がいました。倉科遼先生は僕の漫画をとても褒めて下さって、自分が自費出版してでも出したいと言って下さいました。
漫画で実績のないお笑い芸人が描いた漫画を読んで、「作品にした方がいいよ」「自費出版してでも出したい」と言える勇気に驚きました。世間の評価が出る前に、後押しするのは、強い責任をありそうなのにです。
同時に、そう言わしめる矢部さんの作品の素晴らしさは、出版される前でも、わかる人にはわかっていたのだと、思いました。
矢部さんは漫画が売れても受賞しても一切おごり高ぶっていません。謙虚な姿勢でい続けているところを、私は見習う必要があると感じました。
受賞しても、
- 「作品にした方がいいよ」と言ってくれた人のおかげ
- 相方がすすめてくれたおかげ
- 大家さんが「矢部さんはいいわね、まだまだお若くて何でもできて。これからが楽しみですね」と言ってくれたおかげ
- デジタルで描いているので、文明の利器のおかげ
- 受賞会見でウケたのは先輩方のおかげ
いろんな人の力があってできた本でしょうが、一番すごいのは、実際にやり遂げた矢部さんです。矢部さんがすごいのは誰もがわかっています。わかっているからこそ、自分がすごいと見せる必要はないのだと思いました。
矢部さんの心の内まではわかりませんが、少なくとも私には、「自分はすごい」というふうには一切見えませんでした。矢部さんはどんなときにも相手を立て、マウントを取りません。
矢部さんの心の内が垣間見えたと感じたのは、「大家さんと僕がもしも出会っていなかったら」で始まる漫画です。
僕はひとりちいさなワンルームマンションで
さみしいままで
季節の過ぎ行くことも知らず
なにもしないのに他人の悪口を言ってスッキリしたりして
それをしあわせだと思っていたことでしょう
でも大家さんと出会えて人生が変わりました
僕はしあわせの本当の意味を知りました
矢部さんのしあわせの本当の意味は、
- 誰かと一緒に住んで
- さみしくなく
- 季節の過ぎ行くのを感じ
- 他人の悪口を言わず、謙虚に新たなことにチャレンジする
- それを教えてくれたのが大家さん
書き上げたのは矢部さんですが、周りの方の支えがあったのは事実でしょう。なので、自分がすごいのではなく、「○○のおかげ」と相手を立てても違和感はありません。立ててもらった方も悪い気はしないでしょう。
相手を立てる姿は謙虚で、矢部さんの人間的魅力を感じました。
成功者に理由を聞くと、「運が良かっただけ」と返答される話を思い出しました。それは謙虚さを表しています。「○○のおかげです」と返答するのも、謙虚さが現れています。
ちょっとした成功でも、自分が頑張ったからと思いがちな私にとって、成功者の謙虚さを見習わねばなりません。切実に。
『大家さんと僕』の感想はこちらです。
『大家さんと僕 それから』(続篇)の感想はこちらです。