入所者を助けたのに感謝されなかった
やまゆり園事件とは、
2016年7月、神奈川県相模原市の知的障害者施設で起きた、殺傷事件です。
45人を殺傷、うち19人が死亡しました。
犯人(植松)は、事件のあった障害者施設の、元職員でした。
障害者施設に入職した当時の自己紹介文が載っています。
心温かい職員の皆様と笑顔で働くことが出来る毎日に感動しております。仕事では、毎日が分からない事だらけです。
(中略)一年後には仕事を任す事の出来る職員を目指して日々頑張っていきます。これからも宜しくお願い致します。
当たり前かもしれませんが、いたって普通です。
自己紹介文を読んで、彼が犯罪する人間だとは、私には見抜けません。
初々しい若者が入職した、という印象です。
2012年の入職当時、障害者の殺傷を計画していたわけではないでしょう。
どこかのタイミングで、障害者を殺す計画を立て、実行してしまいました。
最初から殺人を目論んでいたわけではないはずです。
そうすると、私だって、わからないと思いました。
私も、どこかのタイミングで、人を殺してしまう可能性は、ゼロではありません。
誰にだって、どこかで衝動が湧き出てしまう可能性は、ゼロとは言い切れません。
障害者施設で働き始めた、いたいけな若者が、4年後に大量殺人者になってしまうのですから。
彼は、衆議院議長にあてた手紙に、
私の目標は重度障害者の方が家庭内での生活、および社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です。
と書きました。
その目標を、私は否定できません。
目標を実現するための手段は誤りましたが、彼のエネルギーは、すさまじいものがあります。
衆議院議長に手紙を書いて、一度受け取ってもらえず出直し、二度目は土下座して受け取ってもらったそうです。
普通、そこまでしますかね。
彼の家族に重度障害者はいません。
世界を変えたい、社会を変えたい。
どうしてそこまで変えたいのでしょうか。
彼が、そこまでして安楽死のできる望む世界に変えたかった理由は、私にはわかりませんでした。
国家予算が増大し、借金が増える日本の社会を、変えたいという根底の動機は、私にはつかめませんでした。
予算が増大し、借金が増えたところで、彼の生活には、さほど影響は出ないでしょう。
「社会のために、という使命感はどこから来るのか。人生を賭してまで事件を起こさなければならなかったのか」の問いに対して、
社会の役に立たない重度障害者を支える仕事は、誰のためにもなっていない。だから自分は社会にとって役に立たない人間だった。事件を起こして、やっと役に立てる存在になれたんです
と答えます。
障害者を支える仕事は、障害者やその家族のためになっているし、それを実感したら、働く側のためにもつながると思うんですがね。
障害者や、家族から感謝されてこなかったのかもしれません。
家族はほとんど面会に来ない、障害者年金をギャンブルに使い、(中略)入浴時に溺れた入所者を助けてもお礼を言われなかった。
溺れている入所者を助けたのに、感謝してもらえなかった恨みは、ある気がしますね。