悪魔の楽器トランペット
フリージャーナリストの主人公は、熱狂と称されるトランペットを隠し持っていました。
そのトランペットは、第二次世界大戦中、劣勢だった日本軍を熱狂させ、米軍に奇襲を食らわせたという逸話がありました。
魔力的な音色を奏でるトランペットを、ドイツのアパートで隠し持っていた主人公は、ある組織に追われます。
組織の男「B」に、主人公は見つかります。
Bは、主人公に3つの選択肢を与えます。
まずⅠは、死ぬことだ。でも普通の死ではない。
(中略)
二つ目の選択肢、Ⅱの呪いとはつまり、本当の呪いだ。君をここで自由にする代わりに、君の運命を規定する。
(中略)
三つ目のⅢは(中略)生まれ変わりだ。君がこの世界において、最もなりたくない存在になってもらう。
主人公=逃亡者です。
逃亡者になった主人公の経緯、悪魔の楽器トランペットの歴史が、戦争と宗教を中心に語られます。
物語の在り方
物語について、
正義は勝ち、努力は報われ、悪をすればすっきり罰せられる社会の方が良い。
広く広がる物語は、この原則に沿って作られているそうです。
例えば、
- 物語:メイドが貴族の妻にフォークを突き刺され、追い出される。メイドはそのフォークを使って描いた絵で金を稼ぐ
- 実話:メイドがテーブルからフォークを落とし、貴族の妻に怒鳴られる。家を出たメイドは、山賊に襲われて死ぬ
やりきれない実話を、努力で現実を克服した物語に変えることで、人々は救われます。
一方、うまくいかないのは努力が足りないからだという解釈もされます。
人々は実話を物語に改変し安心した。自分達が追い出したメイドもきっと上手くやってると。むしろその後上手くいかないのは、メイド達の努力が足りないからだと。
第二次世界大戦中のトランペットの演奏も、物語と実話で違います。
- 物語:劣勢だった日本軍が熱狂し、米軍に奇襲を食らわせた
- 実話:女を襲う日本軍の狂気を音にした
トランペットの演奏者は苦悩します。
”皆が望む曲を演奏することが、本当にいいことなのか”
曲だけではない。内地では、本当の戦況は伝えられず、皆が喜びそうなものだけを、ニュウスで伝えているらしい。
物語だと提示した上で実話を改変しないと、実話を知ることはできません。物語が実話として受け取られてしまいます。
戦時中に本当の戦況を伝えないのは、物語への改変ではなく、虚構です。
受け取る側は、実話を知る由がないので、伝えられた虚構を真実として受け取らざるを得ません。
トランペットの演奏はどうでしょう。
虚構というより、そうであってほしいという現実が見せた幻のような気がします。
調べた言葉
- 諜報:敵情をひそかに探って味方に知らせること
- 慰問:見舞ってなぐさめること
- 宣撫:占領地区で、占領軍の方針・政策などを知らせて人心を安定させること
- 迷信:科学的根拠がなく、社会生活に実害を及ぼすことが多いとされる信仰
- 穏健:おだやかでしっかりしているさま
- 檀家(だんか):一定の寺院に属し、金や物を寄付して、その寺院の維持を助ける信徒の家
- 帰依:神仏を信仰してすがること
- 工作員:諜報活動など、秘密裏の活動をする人
- たぎる:感情が激しくわき上がる
- 述懐:真鍮の思いや思い出を述べること
- 蜂起:多くの者がいっせいに暴動・反乱などの行動を起こすこと
- 論客:議論の好きな人、よく議論する人
- 殉教:信仰する宗教のために自分の命をささげること
- 流杯(りゅうはい):辺地や離島に追いやる刑罰
- 喜捨:困っている人に、進んで金品を寄付すること