いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

2021-01-01から1年間の記事一覧

『悪い音楽』九段理江(著)の感想【心がない教師】(文學界新人賞受賞)

心がない教師 面白く一気に読みました。 文學界新人賞の受賞作2作のうちの1作ですが、本作の単独受賞で良いと思いました。 中学校の音楽教師である主人公は、男子生徒同士の喧嘩の第一発見者として、話し合いの場に出席させられます。 生徒の親や、教頭など…

『穀雨のころ』青野暦(著)の感想【きわめて優れたスケッチ】(文學界新人賞受賞)

きわめて優れたスケッチ 文學界新人賞には、2817作の応募があったそうです。 受賞作は2817作のうちの2作。ですが選考委員の選評は厳しいです。 『穀雨のころ』は、長嶋有さんだけが○をつけ、その他4人の選考委員は×をつけたそうです。 本作は、高校生の男女4…

【三島賞発表】第34回三島由紀夫賞受賞作発表(2021年)の感想

第34回三島由紀夫賞受賞作 三島賞の受賞作が、2021年5月14日(金)に発表されました。 受賞作は、乗代雄介の『旅する練習』です。 旅する練習 作者:乗代雄介 発売日: 2020/12/28 メディア: Kindle版 感想はこちらです。 『旅する練習』は、前回の芥川賞で候…

『彼岸花が咲く島』李琴峰(著)の感想【正しいと思うことをする】(三島賞候補、芥川賞受賞)

正しいと思うことをする 主人公の少女は、流れ着いた島で、記憶をなくしていました。 島の海岸には、彼岸花が咲いています。 主人公を発見したのは、同い年くらいの少女でした。彼女の話す言葉を、主人公は理解できません。 「ノロ」という役割を担った女性…

『象の皮膚』佐藤厚志(著)の感想【アトピーに苦しむ主人公】(三島賞候補)

アトピーに苦しむ主人公 象の皮膚とは、主人公の皮膚のことです。 硬くごわごわした象の皮膚は私の皮膚に似ている 主人公の女性は、小さい頃からアトピーに苦しんでいます。 同級生にいじめられ、家族からも汚いものを見る目で見られています。 社会人になっ…

『増補新版 書く人はここで躓く』宮原昭夫(著)の感想【芥川賞作家の小説の書き方】

芥川賞作家の小説の書き方 著者の宮原さんは、新人賞を受賞後、 芥川賞候補 直木賞候補 を経て、芥川賞を受賞しています。 その後、小説講座の講師をし、村田沙耶香さんを育てたそうです。 芥川賞受賞だけでなく、直木賞の候補にもなっているので、エンタメ…

『[実践]小説教室』根本昌夫(著)の感想【小説を書く楽しさ】

小説を書く楽しさ 著者の根本さんは、小説を書く楽しさや醍醐味を、3つにまとめています。 小説を書くこと、読むことの面白さが増す 過去のある一点から、自分の人生を生き直すことができる 自分が世界そのものなんだ、世界と一体なんだという感覚に目覚めて…

『デビュー作を書くための超「小説」教室』高橋源一郎(著)の感想【新人賞を受賞する方法】

新人賞を受賞する方法 著者の高橋さんは、いくつも文学賞の選考委員をしています。 本書の前半では、 文学賞の選考 文学賞の選考委員 新人作家の条件 が書かれ、後半では高橋さんの選評(群像新人文学賞、すばる文学賞、文藝賞など)が書かれています。 新人…

『本物の読書家』乗代雄介(著)の感想【ミステリー純文学】(野間文芸新人賞受賞)

ミステリー純文学 主人公は、母から3万円を貰う代わりに、老人ホームへ向かう大叔父に同行します。 経路は上野駅から高萩駅までで、電車で向かいます。 主人公が、遠い親戚の大叔父から、 彼に送り届けてもらいたい と指名されたのは、自分が読書家だからと…

『未熟な同感者』乗代雄介(著)の感想【完全な同感者とは】

完全な同感者とは 本作には3つの軸があります。 主人公である女子大生の生活(主にゼミ活動) サリンジャーをはじめとするゼミの文学講義 講義で参考にする文学の引用 2と3だけでは小説にはならないので、1を書いたという印象があります。 著者が2と3に労力…

『コンビニ人間』村田沙耶香(著)の感想【「○○人間」と言えるもの】(芥川賞受賞)

「○○人間」と言えるもの タイトルにあるとおり、主人公は「コンビニ人間」です。 18歳から18年間、コンビニでバイトし、 コンビニの商品を飲み食いし、 コンビニの勤務に備えて体調を万全にします。 コンビニ中心に生活する人間。当然、無遅刻無欠勤です。 …

『しんせかい』山下澄人(著)の感想【切ない青春小説】(芥川賞受賞)

切ない青春小説 主人公は、著者と同姓同名の山下スミト、19歳です。 主人公は、高校を卒業しアルバイト生活を送っていたところ、家に間違えて配達された新聞で募集記事を見て、応募しました。 俳優と脚本家、脚本家というものが何なのかよくわからなかったの…

『おらおらでひとりいぐも』若竹千佐子(著)の感想【生きた意味、生きる意味】(芥川賞受賞、文藝賞受賞)

生きた意味、生きる意味 主人公は、東北出身の74歳の女性です。 夫に先立たれ、残された家に一人で暮らしています。 一人の老後生活には、寂しさがつきまといますが、主人公はしたたかに生きています。 満二十四のときに故郷を離れてかれこれ五十年、日常会…

【三島賞予想】第34回三島由紀夫賞候補作発表(2021年)

三島賞候補作発表 2021年4月21日、三島由紀夫賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、5月14日(金)です。 以下、候補作をまとめ、受賞予想をいたします。 『水と礫』藤原無雨 初の候補です。 文藝賞を受賞したデビュー作です。 水と礫 作者:藤原…

『百年泥』石井遊佳(著)の感想【面白いが実態をつかめない】(芥川賞受賞、新潮新人賞受賞)

面白いが実態をつかめない 主人公は、男に借金を背負わされたため、インドで日本語教師をします。 資格も経験もありません。 インドのチェンナイで、若いIT技術者たちに日本語を教えていると、百年に一度の大洪水が起きました。 橋の上に積み上げられる泥。 …

『ニムロッド』上田岳弘(著)の感想【駄目な人間、完全な人間】(芥川賞受賞)

駄目な人間、完全な人間 主人公はサーバーのサポート業務をしていますが、社長から、仮想通貨を採掘する業務を言い渡されます。 新設される課で、主人公は名ばかりの課長昇進ですが、 新しいことに取り組むのは何にせよ楽しみ と、仮想通貨のマイニングに意…

『1R1分34秒』町屋良平(著)の感想【自分の人生と照らし合わさずにはいられない】(芥川賞受賞)

自分の人生と照らし合わさずにはいられない プロボクサーの主人公は、初戦を勝利しましたが、その後は2敗1分けと、負け越しています。 主人公は21歳なので、私としては「まだまだこれから」と思ってしまうのですが、主人公は違います。敗戦後に頭部CTを撮っ…

『星に帰れよ』新胡桃(著)の感想【現役女子高生の作品】(文藝賞優秀賞)

現役女子高生の作品 文藝賞に応募があった2360作の第2位です。 受賞作は『水と礫』です。感想はこちらです。 本作『星に帰れよ』の何がすごいって、高校2年生が書いた作品であることです。 反対に、高校2年生が書いた作品だからこそ、優秀賞を受賞したのかも…

『追いつかれた者たち』濱道拓(著)の感想【最後まで読ませる力】(新潮新人賞受賞)

最後まで読ませる力 途中で読むのをやめようと、何度か思いました。 登場人物の独白や、まとわりつく文章に、胸やけするような感じがあったからです。 また、小山田浩子さんの選評で、 読んでいて暴力や陰惨さに心乱されねばならない間合いでいちいちつまず…

『わからないままで』小池水音(著)の感想【選評を読んで】(新潮新人賞受賞)

選評を読んで 物語の章ごとに登場人物の人称が変わるので、読みにくさがあります。 例えば、1章で「父親」と書かれていた人物が、2章では「男」と書かれています。 章ごとに人称が変わることについて、選評で小山田浩子さんは、 効果よりもわかりづらさが勝…

『一億三千万人のための小説教室』高橋源一郎(著)の感想【自分にしか書けない小説を書く方法】

自分にしか書けない小説を書く方法 小説の書き方の本というより、小説に対する考え方の本です。 著者の高橋さんは、小説を書きたい人に向けて、 あなたが書かねばならない、あなたにしか書けない小説 を書くよう、言います。 小説を書くには「バカ」でなけれ…

『命売ります』三島由紀夫(著)の感想【死ぬのに疲れた主人公】

死ぬのに疲れた主人公 主人公が目を覚ますと、病院でした。 主人公は、自殺に失敗したことを知ります。 なぜ、自殺を図ったのかというと、 新聞の活字だってみんなゴキブリになってしまったのに生きていても仕方がない、と思ったら最後、その「死ぬ」という…

『完全な遊戯』石原慎太郎(著)の感想【胸糞悪いのか】

胸糞悪いのか ひどい話なのは確かです。 主人公と連れの男性が、夜中、バス停にいた女性を車に乗せ、車内でレイプ 部屋に連れて帰り、監禁し、他にも男を呼んで、輪姦 女性に飽き、帰る場所のない女性だとわかると、風俗店で働かせる 風俗の仕事ができないこ…

『文學界(2021年2月号) (創刊1000号記念特大号)』の感想【文學界と私/作家の節目】

文學界と私/作家の節目 本書の「エッセイ特集」では、第一線で作品を書いている作家の、 デビュー前 デビュー当時 の話が書かれています。 今や誰もが知る作家にも、苦労していた時代があったとわかります。 中でも、 宮本輝さんの「同人誌のころ」 吉田修…

『わがままロマンサー』鴻池留衣(著)の感想【性に奔放な夫婦】

性に奔放な夫婦 一文目から強烈です。 妻の機嫌を治すために、男と寝ることになった。 妻の機嫌を損ねたのは、主人公が隠れて浮気をしたからです。 主人公は、著者本人に近しい、純文学の小説家です。ゲイやバイではありません。 BL(ボーイズラブ)漫画家で…

『火花』又吉直樹(著)の感想②【結果が出ないことに挑戦すること】(芥川賞受賞、三島賞候補)

結果が出ないことに挑戦すること 感想①はこちらです。 主人公も、慕っていた先輩芸人も、大して売れません。 では、芸人をしていたことは無駄だったのでしょうか。 必要がないことを長い時間をかけてやり続けることは怖いだろう? 一度しかない人生において…

『火花』又吉直樹(著)の感想①【人と違うことをせなあかん】(芥川賞受賞、三島賞候補)

人と違うことをせなあかん 売れない若手芸人である主人公が、同じく売れない芸人の先輩を慕います。 二人が出会ったのは、熱海の花火大会です。ビール瓶のケースで作った簡易な舞台で漫才をしますが、主人公のコンビは全くうけません。 先輩は、 仇とったる…

『踏切の向こう』高橋弘希(著)の感想【自殺した弟の代わり】

自殺した弟の代わり 男子高校生の主人公は、クリーニング屋で短期アルバイトを始めます。 そこで、主人公の志望大学に通う女子大生と出会います。 主人公が「英語が苦手」と話すと、その女子大生の家で、勉強会をすることになります。 彼女のアパートは、踏…

『草の上の朝食』保坂和志(著)の感想【会話、性欲、愛】(野間文芸新人賞受賞)

会話、性欲、愛 前作『プレーンソング』に退屈さを感じていたのに、続編である本書を手に取ってしまいました。 『プレーンソング』の感想はこちらです。 なぜ本書を読んだかというと、数々の文学賞を受賞し、後の作家に影響を与えている保坂さんの作品を、「…

「ナインティナインのオールナイトニッポン(ゲスト:ニューヨーク、鬼越トマホーク)」の感想【『遺書』に言及】

『遺書』に言及 ナインティナインの矢部さんが、松本人志さんの著書に言及します。 話の流れは、鬼越トマホーク坂井さんが、 ナイナイさんが苦手なダウンタウンさん と言ったことに対し、 岡村さんは、 苦手じゃない、きっちり楽屋に挨拶行けるぐらいにまで…