いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

「受賞者インタビュー 無職の二年間が精神修行になった」の感想(『文藝春秋』2017年9月号)

無職の二年間が精神修行になった 沼田真佑さんが『影裏』で芥川賞を受賞したときのインタビュー記事です。 タイトルが強烈です。 無職の二年間が 精神修行になった どういうことなんでしょうか? 沼田さんは、約10年間働いた後に、無職になったそうです。 九…

『息』小池水音(著)の感想【息を止めたら】(三島賞候補)

息を止めたら タイトル「息」が、何を示すのか、考えました。 デビュー3作目のタイトルにしては、シンプルすぎると感じました。 タイトルだけで読もうとは、思えません。ストロングスタイルです。 私は、三島賞の候補になったから、読んでみようと思いました…

『エレクトリック』千葉雅也(著)の感想①【同性愛の目覚め】(三島賞候補、芥川賞候補)

同性愛の目覚め 主人公は、宇都宮に住む高校2年生です。 時代は1995年。 1978年生まれの著者自身の年代と合っています。 「エレクトリック」とは、 電気の、電気で動く、電動の(weblioより) という意味があります。 本作で言うと、 アンプ(主人公の父が製…

『浮遊』遠野遥(著)の感想【悪霊から逃げるゲーム】

悪霊から逃げるゲーム 主人公は女子高生です。 主人公は、父親と同じ歳くらいの男性のマンションで、暮らしています。 同居の男性の名は、「碧」(あお)。 年配の男性にしては、珍しい名前です。 主人公は、「碧くん」と呼びます。 なぜ、主人公が碧と暮ら…

『まっとうな人生』絲山秋子(著)の感想【『逃亡くそたわけ』の続編】

『逃亡くそたわけ』の続編 本書は、著者の小説『逃亡くそたわけ』の続編です。 『逃亡くそたわけ』は、主人公の女子大生が、入院中の病院から抜け出し、博多から鹿児島へ、車で逃亡する話です。 詳しい感想はこちらです。 『まっとうな人生』は、『逃亡くそ…

『逃亡くそたわけ』絲山秋子(著)の感想【精神病院からの脱走劇】

精神病院からの脱走劇 21歳女子大生の主人公は、入院中の精神病院から脱走します。 主人公と一緒に脱走するのは、名古屋出身のなごやん24歳。 なごやんも患者です。 21歳女性と24歳男性の、逃亡劇。 なごやんの車で、博多から大分、熊本、宮崎、鹿児島と走り…

『やまゆり園事件』神奈川新聞取材班 (著) の感想【入所者を助けたのに感謝されなかった】

入所者を助けたのに感謝されなかった やまゆり園事件とは、 2016年7月、神奈川県相模原市の知的障害者施設で起きた、殺傷事件です。 45人を殺傷、うち19人が死亡しました。 犯人(植松)は、事件のあった障害者施設の、元職員でした。 障害者施設に入職した…

『相模原障害者殺傷事件』朝日新聞取材班(著)の感想【同意の上での安楽死は否定できない】

同意の上での安楽死は否定できない 相模原障害者殺傷事件とは、 2016年7月、神奈川県相模原市の障害者施設で起きた、殺傷事件です。 45人を殺傷、うち19人が死亡しました。 被告は事件のあった障害者施設の、元職員でした。 被告は死刑になりました。 検察は…

『名場面で味わう日本文学60選』の感想【『蒲団』は勘違い小説の傑作】

『蒲団』は勘違い小説の傑作 作家、翻訳者、研究者(計6人)が、日本文学を10作ずつを選びます。 10作の名シーンを抜粋 シーンや作品を解説 抜粋シーンや解説により、読みたい本や再読したい本が増えました。 大江健三郎『新しい人よ眼ざめよ』 志賀直哉『城…

『教育』遠野遥(著)の感想【小説はなんでもあり】(野間文芸新人賞候補)

小説はなんでもあり 小説はなんでもありと、思わせてくれる作品でした。 主人公は、全寮制の学校の学生です。 この学校では、一日三回以上オーガズムに達すると成績が上がりやすいとされていて、学校側から生徒にポルノ・ビデオが供給される。 どんな学校? …

『街とその不確かな壁』村上春樹(著)の感想③【子易さんという魅力的な人物】

子易さんという魅力的な人物 感想①はこちらです。 感想②はこちらです。 本作で魅力的な人物といえば、 子易(こやす)さんを挙げる人が多いと思います。 私も同感です。 子易さんは、主人公が館長として就任した図書館の、元館長です。 主人公を支えてくれる…

『街とその不確かな壁』村上春樹(著)の感想②【きみはどこへ行った】

きみはどこへ行った 感想①はこちらです。 主人公は高校生のとき、「きみ」に出会いました。 その後、「きみ」と連絡がつかなくなります。 主人公は「きみ」のことを忘れられませんが、どうすることもできません。 十年以上経ったある日、主人公は、別の世界…

『街とその不確かな壁』村上春樹(著)の感想①【40年越しの仕事の背景】

40年越しの仕事の背景 『街と、その不確かな壁』を前作 『街とその不確かな壁』を新作 とします。 今回は、新作の巻末「あとがき」についての感想です。 ネタバレは最小限です。 前作の感想はこちらです。 新作を読む前に、前作を読んだときの感想はこちらで…

『街と、その不確かな壁』村上春樹(著)の感想【新作『街とその不確かな壁』を読む前に】

新作『街とその不確かな壁』を読む前に 2023年4月13日発売の新作を前に、『街と、その不確かな壁』を再読しました。 タイトルがあまりにも似ています。 違いは「、」があるかないかだけ。 新作『街とその不確かな壁』のあらすじを抜粋すると、 その街に行か…

『破局』遠野遥(著)の感想【再読して面白い】(芥川賞受賞)

再読して面白い 読むのは、3回目か、4回目です。 3回以上読む小説は、ほとんどありません。 遠野さんの作品では、『破局』以外にも、『改良』を4回読んでいます。 どうしてそんなに読むのでしょうか。 たぶん、面白いからです。 たぶんとつけましたが、面白…

『パパイヤ・ママイヤ』乗代雄介(著)の感想【少女の秘密基地】

少女の秘密基地 後半に進むにつれ、面白くなります。 前半は、正直退屈です。 乗代さんの作品を読んだことのない人は、序盤で脱落する可能性があります。 最後まで読むと、爽やかな気持ちになれます。 乗代さんの『旅する練習』に近い、ロードムービーのよう…

『オカンといっしょ』ツチヤタカユキ(著)の感想【自虐と皮肉が面白い】

自虐と皮肉が面白い 『笑いのカイブツ』が面白かったので、2作目の本作にも期待していました。 『笑いのカイブツ』の感想はこちらです。 『笑いのカイブツ』は、 笑いにストイックだが結果が出ない 笑いを諦めきれず、もがき苦しむ 認めてくれる友達や恋人と…

『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』町田康(著)の感想③【文学の最終的な目的】

文学の最終的な目的 感想①はこちらです。 感想②はこちらです。 文学の最終的な目的は何ですかって話です。 なぜ文学を読むのか なぜ文学を書くのか に、置き換えてもいいかもしれません。 町田さんは言います。 この世の熱狂から離脱すること、この世にいな…

『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』町田康(著)の感想②【詩と小説の書き方】

詩と小説の書き方 感想①はこちらです。 町田さんには、「おもろい詩の四条件」があるそうです。 感情の出し方がうまい 調べ(調子で持っていく、音楽的) そいつ自身がおもろい 書かれている内容が正しかったり、役に立ったりする 反対に、「おもろない詩」…

『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』町田康(著)の感想①【読書体験を振り返る】

読書体験を振り返る サブタイトルに惹かれて本を読んだのは、初めてでした。 「私の文学史」だけだったら、手に取らなかったかもしれません。 「なぜ俺はこんな人間になったのか?」があることで、どうして町田さんは、町田さんになったのか、気になりました…

『前夜』ツチヤタカユキ(著)の感想【バイトを変え続ける理由】

バイトを変え続ける理由 『笑いのカイブツ』の著者の続編 と、言っていいのかわかりません。 こちらはフィクションを混ぜているようだからです。 例えば、主人公が 小説を書く 遊郭に行く 海外に逃亡 これらは著者自身のことかどうか、わかりません。 事実で…

『笑いのカイブツ』ツチヤタカユキ(著)の感想【夢を諦める前に】

夢を諦める前に 夢を諦める前に、読むべき本書。 本書を読めば、夢を諦めるべきかどうか、テストができます。 テスト「本書のツチヤさんより、努力しましたか?」 YES:夢を諦めてもOK NO:もうちょっと頑張ってもいいんじゃない? シンプルなテストです。 …

『改良』遠野遥(著)の感想【4回も読んでる】(文藝賞受賞)

4回も読んでる 私は過去3回、『改良』の感想を書いてます。 1回目は、2019年11月。 2回目は、2020年11月。 3回目は、2022年4月(読書メーターで記載)。 bookmeter.com 約1年ぶり、4回目の『改良』。 4回目の感想を書いてるということは、本書を4回読んでま…

『あなたの小説にはたくらみがない 超実践的創作講座』の感想【編集者視点の小説の書き方】

編集者視点の小説の書き方 著者は、新潮社の編集者です。 40年間、編集に携わり、5つの新人賞を立ち上げた経験があるようです。 小説を書こうとする方々に申し上げたいのは、好きなように書くのが身のためですよ、ということだ。これだけ小説の「物差し」が…

『大江健三郎自選短篇』(初期短篇)の感想【『空の怪物アグイー』と『個人的な体験』】

空の怪物アグイー 大江さんの初期短篇の読後感は、やるせないです。 頑張っても報われない 無駄な努力 予想外の裏切り など、ため息をついてしまう終わり方の作品が多いです。(それが良さでもあります) ただ、『空の怪物アグイー』は少し違います。 主人公…

『家』高橋弘希(著)の感想【老婆を殺して良心が痛むか】

老婆を殺して良心が痛むか 29歳の主人公は、ネット掲示板で募集の仕事に応募します。 仕事内容は、老婆の家の金庫にある2000万円を盗むことでした。 主人公の取り分は、半分の1000万です。 財布に250円しか入っていない主人公には、僥倖でした。 押し入った…

『音楽が鳴りやんだら』高橋弘希(著)の感想②【記事を書く個人に価値はない】

記事を書く個人に価値はない 感想①はこちらです。 主人公のバンドをインタビューする、雑誌記者がいます。 記者は主人公のバンドのファンでもあり、仕事熱心です。 しかし、その記者は異動します。 異動先は、ゴシップを取り扱う週刊誌でした。 記者は、主人…

『世界地図、傾く』黒川卓希(著)の感想【選評を読んで】(新潮新人賞受賞)

選評を読んで 新潮新人賞には、2630作品の応募があったそうです。 本作がその頂点にふさわしいかというと、そうは思いませんでした。 何の話かよくわからなく、読み通すのが苦痛でした。 新人賞か芥川賞候補作でなければ、途中で読むのをやめています。 しか…

『日曜日の人々』高橋弘希(著)の感想【自助グループの存在意義】(野間文芸新人賞受賞)

自助グループの存在意義 「日曜日の人々」とは、自助グループの冊子です。 自助グループとは、悩みや問題を抱えた人たちが集まる場です。 冊子には、メンバーの個人的な体験が書かれています。 拒食症 窃盗癖 不眠症 など、自身の悩みや問題が書かれています…

『音楽が鳴りやんだら』高橋弘希(著)の感想①【本気で音楽をやる代償】

本気で音楽をやる代償 主人公は、音楽の才能に恵まれます。 地元の友達と組んだバンドで、レコード会社からデビューの声がかかります。 デビューの条件は、ベースのメンバーを変えること。 レコード会社の社員は言います。 本気で音楽をやりたいのなら、代償…