いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

2019-01-01から1年間の記事一覧

【野間文芸新人賞予想】第41回候補作発表(2019年)

野間文芸新人賞候補作発表 2019年10月1日、野間文芸新人賞の候補6作品が発表されました。 受賞作の発表は、2019年11月6日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめます。 古谷田奈月『神前酔狂宴』 『無限の玄/風下の朱』に続き、2回連続の候補です。 神…

『如何様』高山羽根子(著)の感想【戦争から帰ったら別人に】(野間文芸新人賞候補)

戦争から帰ったら別人に 戦争は人を変えると言います。 その言葉どおり、戦争から帰ってきた男の見た目が、別人になっていました。 見た目は明らかに別人なのに、男の両親も、男の妻も、さほど気にしていません。 むしろ、帰ってきたのがありがたいと、男の…

『前立腺歌日記』四元康祐(著)の感想【ユーモアな前立腺がん闘病記】(野間文芸新人賞候補)

ユーモアな前立腺がん闘病記 前立腺がんの闘病記と聞くと、シリアスかつ下の話が多いのではと、思うかもしれません。 ですが、ユーモアです。(下の話が多いのは否定しません) 手術の場合の後遺症って、なんなんですか? と私は訊いた。 主に尿漏れと性的不…

『夢をかなえるゾウ2 ガネーシャと貧乏神』水野敬也(著)の感想【努力しても報われない人に】

努力しても報われない人に 主人公は、売れないピン芸人です。 芸人への憧れを捨てきれず、サラリーマンを辞めました。 このまま毎朝同じ電車に揺られ、同じ作業を繰り返して一生を過ごしていくのだろうか。 (中略) 人間にとって一番怖いのは、将来が見えな…

『神前酔狂宴』古谷田奈月(著)の感想【披露宴の滑稽さを高めるため全力で働く男】(野間文芸新人賞受賞)

披露宴の滑稽さを高めるため全力で働く 神前酔狂宴を文字どおり読むと、神の前で酔い狂う宴。 主人公は、結婚披露宴の会場の派遣スタッフです。 結婚披露宴って何?(中略)なんでみんな、結婚を披露するの?(p.40) そう思いながら、時給が高いので働いて…

『デッドライン』千葉雅也(著)の感想【締め切りに追われるゲイの大学院生】(野間文芸新人賞受賞、芥川賞候補、三島賞候補)

締め切りに追われるゲイの大学院生 デッドライン=修士論文の締め切りです。 主人公は、哲学を研究する大学院生です。 とりあえず惰性でモースの研究を続けていた。それでいいのかどうかはまだよく考えていなかった。 モースの研究をするのは、流されて行き…

『なるべく働きたくない人のためのお金の話』大原扁理(著)の感想【やりたくないことから逃げる】

やりたくないことから逃げる 「やりたいことをしよう」 成功している人がよく言うイメージです。 ですが、やりたいことがわからない人もいます。 「やりたいことがわからないんです……」 と言おうもんなら、 「絶対あるから。探そう」 そんなときは、逆の発想…

『青痣』宮下遼(著)の感想【母に一人残された少女】(野間文芸新人賞候補、三島賞候補)

母に一人残された少女 二人暮らしの家から、母が消えます。 母の最後の言葉です。 「ジターヌを切らしてるみたいなの」 (中略) 「だから、ちょっと買いに行ってくるわ」(p.37) ジターヌ(煙草)を買いに、少女から離れる母。 少女は、子を預かっている貸…

村上春樹作品で最初に読むべき小説【初心者向けおすすめ本3選】

短編がおすすめ 村上春樹作品を読んでみたいけど、どれを読んだらいいかわからない。 そんな方向けに、おすすめ作品を紹介します。 結論から言うと、短編がおすすめです。 その理由は2つです。 読みやすいから 自分に合うかどうかわかるから 1つ目、読みやす…

『なんでお店が儲からないのかを僕が解決する』堀江貴文(著)の感想【お店が生き残るには】

お店が生き残るには驚きが必要 飲食店の入れ替わりは激しいです。 特に都心は、行くたびに新しい店ができています。 それは同時に、そこにあった店がつぶれているということです。 どうすれば、生き残るお店を作れるのでしょうか。 365日外食している堀江さ…

『そこどけあほが通るさかい』石倉真帆(著)の感想【村社会に耐える】(群像新人賞受賞)

村社会に耐える 村社会は人間関係が密です。 それが嫌なら村を出ればいいのですが、主人公は学生なのでそうはいきません。 頭が良いわけでも、スポーツもできるわけでもない女子生徒です。 将来やりたいことがあるわけでもありません。 ただ今の環境が嫌で、…

『愛が嫌い』町屋良平(著)の感想【生きがいや夢がない人に】

生きがいや夢がない 何のために生きていますか。 に、明確に答えられる人って、そんないないと思います。 私は、ぼんやりと日々をやり過ごしています。 仕事嫌だなあ、早く帰りたいなあ、休みがいいなあ、というように。 29歳の主人公は、2年前に仕事を辞め…

「結婚できない男」の感想【偏屈なのに魅力的なのはなぜか】

魅力的には見えないのに 主人公は、40歳独身。自営業の建築士です。 結婚はデメリットしかないと考え、独身生活を謳歌しています。 自宅でワインを飲み、ステーキを食べ、大音量でクラシックを聴く。 聴きながら、指揮をするほどです。 体に気を使っているの…

『人間』又吉直樹(著)の感想【人間をやるのが下手な人に】

人間をやるのが下手 『人間』というタイトル、強烈すぎます。 主人公も人間だし、登場人物もみな人間です。 では、このタイトルにある『人間』は、何を指すのでしょう。 自分を含めて僕達は人間をやるのが下手なのではないか。人間としての営みが拙いのでは…

『ぼくはきっとやさしい』町屋良平(著)の感想【人とうまく話せない】

人とうまく話せない 突然、海や川に落とされたことはありますか? 主人公の男の子は、付き合った女の子に、海に落とされます。 インドで仲良くなった女の子には、川に落とされます。 弟の婚約相手には、ストーカー扱いをされ、内容証明が届きます。 主人公は…

『掏摸』中村文則(著)の感想【手のひらで転がされる人間の抵抗】(大江健三郎賞受賞)

手のひらで転がされる人間の抵抗 行動を起こすのは、それをしたいからですよね。 その行動が、実は誰かの手の上だったら。 怖いですよね。 この作品には、他人の人生を手のひらで転がす人間が登場します。 他人の人生を、机の上で規定していく。他人の上にそ…

『金持ち父さん貧乏父さん』の感想【お金のために働いている人に】

お金のために働いている人に お金を稼ぐにはどうしますか。 まず、日雇いやバイト、会社で働くことですね。 つまり、自分の身体や時間を使って、お金を得る方法です。 ですが、これだといつまで経ってもラットレースからは抜け出せないと、著者は言います。 …

『年収90万円で東京ハッピーライフ』大原扁理(著)の感想【好きなことを優先するために】

好きなことを優先するために考える 週に2日だけ介護の仕事をして、他の日は散歩したり読書したり野草を摘んだり。 大原さんは、東京の多摩地区で、2万8000円のアパートに住んでいます。(その後、台湾に転居したそうです) みんなもわたしを見習って隠居しよ…

『人生の勝算』前田裕二(著)の感想【大切なのは絆、努力、コンパス】

大切なのは絆、努力、コンパス この本を通じて伝えたいことは、大きく三つです。絆の大切さ、努力の大切さ、そして、人生という壮大な航海において「コンパス」を持つことの大切さ、です。 前田さんは、人との絆を大切にし、圧倒的な努力をし、人生のコンパ…

『夢をかなえるゾウ』水野敬也(著)の感想【今度こそ変わりたい人に】

今度こそ変わりたい 主人公は、普通のサラリーマンです。 変わりたいと思いながら、変われずに日々働いている青年です。 ある日、呼んでもらったパーティーが華やかで、そんな世界に行きたいと思いました。 ですが、主人公には何もありません。 自己啓発本を…

『風の歌を聴け』村上春樹(著)の感想【Happy Birthday and White Christmas】(群像新人賞受賞、芥川賞候補)

Happy Birtday and White Christmas 『Happy Birthday and White Christmas』は、村上春樹さんが本作を応募したときのタイトルです。 受賞の段になり、タイトルが『風の歌を聴け』に変更されたそうです。 なぜ、変更されたのかはわかりません。 確かに『風の…

読書感想文の簡単な書き方【本の選び方、読み方からわかる】

読書感想文の簡単な書き方 夏休みの宿題の王道、読書感想文。 私は学生時代、最後まで手を付けられずにいました。 無理やりやらされるというのが大きいと思います。 それが今や、自ら本を選んで、感想文をブログに書くようになりました。 その経緯は長くなる…

「劇場版 のんのんびより ばけーしょん」の感想【子どもの成長に大人はいらない】

田舎暮らしから沖縄旅行へ 『のんのんびより』は田舎で暮らす女の子たちを描いたアニメです。 家の周りには、田んぼや畑、山や川が広がっています。狸も出ます。 もちろん、コンビニやスーパーは近くにありません。 学校には生徒が5人。学年はばらばらですが…

『後悔しない超選択術』メンタリストDaiGo(著)の感想【後悔しない選択のために】

正しい選択はない 新卒入社の3割が3年以内に退社 結婚した3組に1組が離婚 退社前提で入社する人は少ないでしょうし、離婚前提で結婚する人はいないでしょう。 このように慎重に選択したとしても、幸せになるとは限らないと、Daigoさんは言います。 未来に何…

『旅の人、島の人』俵万智(著)の感想【石垣島移住で母子が再生していく】

震災を機に石垣島に移り住む 2011年の東日本大震災のとき、俵万智さんは仙台に住んでいました。 震災のニュースばかり見ていたら、小学生の息子に指しゃぶりや赤ちゃんがえりのような症状が出始めたそうです。 石垣島に引っ越した旧友を思い出し、俵さんから…

『村上春樹 ロング・インタビュー 暗闇の中のランタンのように』の感想【小説を読む理由】

デビューから『騎士団長殺し』まで 村上春樹さんへのロングインタビューです。 デビュー作『風の歌を聴け』から作品を振り返りつつ、小説の持つ力について語ります。 『騎士団長殺し』の話がメインですが、読んでいなくても問題ありません。 作品の内容より…

『カラフル』森絵都(著)の感想【人生は少し長めのホームステイ】(産経児童出版文化賞)

人生は少し長めのホームステイ 生きづらさを感じるのは、多くを一人で抱え込みすぎているからかもしれません。 例えば、何かやるときに、相手がどう思うかを考えすぎると、誰とも関わらないのが一番になってしまいます。 どうしてそうなるんでしょう。 相手…

『心と響き合う読書案内』小川洋子(著)の感想【必ず見つかるあなたの一冊】

紹介する52作品に共通するのは「文学遺産」 作家の小川洋子さんが、52の文学作品を紹介します。 外国文学も日本文学も、恋愛小説も絵本も、古典も現代作家も、分け隔てがありません。共通しているのは、文学遺産として長く読み継がれてゆく本、というただそ…

『この世でいちばん大事な「カネ」の話』西原理恵子(著)の感想【学校では教えてくれない金のこと】

きれいごとは一切ない 世の中の多くの人は、カネのハナシをしない。 特に大人は子どもに「お金の話をするのははしたない、下品なことだ」と言って聞かせたりする お金の話って学校で教わらないですよね。 むしろ、 お金がすべてじゃない 幸せはお金では買え…

『ことり』小川洋子(著)の感想【コミュニケーションが苦手なだけ】(芸術選奨文部科学大臣賞)

コミュニケーションが苦手な兄弟 小鳥の小父さん(おじさん)と呼ばれる人は、毎朝幼稚園の鳥小屋を掃除します。 彼は近所の幼稚園の小鳥たちを、二十年近くに亘って世話していた時期があった。誰に頼まれたわけでもない、全くの奉仕活動だった。その間にい…