いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

2020-01-01から1年間の記事一覧

『逃亡者』中村文則(著)の感想【悪魔の楽器トランペット】

悪魔の楽器トランペット フリージャーナリストの主人公は、熱狂と称されるトランペットを隠し持っていました。 そのトランペットは、第二次世界大戦中、劣勢だった日本軍を熱狂させ、米軍に奇襲を食らわせたという逸話がありました。 魔力的な音色を奏でるト…

『生活は座らない』古川真人(著)の感想【生活は落ち着かない】

生活は落ち着かない 「座る」=「落ち着く」とすると、 「生活は座らない」は、「生活は落ち着かない」という意味です。 30代の主人公は、大学時代の友人から誘いの連絡を受けます。 上野に行かない? 上野の美術館、日曜。どう? 誘いを受けた主人公は、友…

『猿を焼く』東山彰良(著)の感想【選択肢を増やす重要性】

選択肢を増やす重要性 「猿を焼く」、強烈なタイトルです。 俊満はその猿を角材で殴り殺した。それでおしまいのはずだった。でもそれではぼくの気がすまなかった。 ぼく(主人公)の気がすまなかったから、猿を焼きました。 猿を焼いた動画を、俊満がインタ…

『リリアン』岸政彦(著)の感想【虫と呼ばれた女の子】(三島賞候補)

虫と呼ばれた女の子 30代後半の主人公は、音楽で生計を立てています。 夜の店で歌の伴奏 音楽教室の講師 で、月20万円くらい稼ぎます。 主人公が本当にやりたいのは、ジャズクラブでの演奏ですが、ギャラは1回1000円ほどなので、伴奏と講師が主な収入です。 …

『木になった亜沙』今村夏子(著)の感想【純粋に欲を追求した結果】

純粋に欲を追求した結果 主人公の亜沙は、自分が差し出した物を食べてもらいたいのですが、食べてもらえません。 例えば、 ひまわりの種:園児に、本当に食べられるものかと訝しがられる クッキー:小学生に、クッキー嫌いだからと突き返される というように…

『首里の馬』高山羽根子(著)の感想【わからないことは怖い】(芥川賞受賞、三島賞候補)

わからないことは怖い 主人公は、中学生のときから10年以上、沖縄の資料館で資料整理をしています。 公的な資料館ではなく、補助金などの収入もありません。 知人が人知れず、情報を蓄積した場所です。 主人公は、資料の整理を無償で行っているため、他に仕…

『アウア・エイジ(Our Age)』岡本学(著)の感想【塔の古い写真】(芥川賞候補)

塔の古い写真 40歳を過ぎた主人公は、離婚し、妻子と会わず数年経っていました。 ただひとり生存を続ける意義を見出せず、毎日を惰性に生きているようなていたらくだった。 そんな主人公のもとに、映画館から封書が届きます。 映写機の葬式をあげるから、ぜ…

『赤い砂を蹴る』石原燃(著)の感想【亡き母の代わりにブラジルへ】(芥川賞候補)

亡き母の代わりにブラジルへ 40代半ばの主人公は、亡き母の代わりに、母の友人とブラジルへ行きます。 母は、友人とブラジルに行くのを楽しみにしていました。 ですが、母に癌が見つかり、旅行どころではなくなりました。 母の友人は、ブラジルで育った日系…

『アキちゃん』三木三奈(著)の感想【大事なことを隠すズルさ】(文學界新人賞受賞、芥川賞候補)

大事なことを隠すズルさ 「アキちゃん」は、主人公が小学5年生のときの同級生です。 大人になった主人公が、過去を回想する形で、物語は進みます。 わたしはアキちゃんが嫌いだった。 (中略) これまでの人生において、これほど真剣に誰かを憎んだことはな…

『破局』遠野遥(著)の感想【不穏な語り手】(芥川賞受賞)

不穏な語り手 「信頼できない語り手」という言葉があります。 主人公の語りが信頼できなく(嘘のようで)、読み手を惑わすことです。 『破局』の語りは、信頼できないというより、読んでいると不穏を感じます。 主人公は、公務員試験を控えている大学4年生で…

『沈黙のWebライティング』の感想【感動する文章より情報】

感動する文章より情報 記事を書いても、検索で上位に表示されず、全然読んでもらえない……。 そんな人におすすめです。私もその一人です。 本書には、 検索上位に表示される記事を書く方法 最後まで読んでもらえる文章を書く方法 読んだ人を行動に移す文章を…

『坂下あたるとしじょうの宇宙』町屋良平(著)の感想【文学が好きな人に】

文学が好きな人に タイトルの「坂下あたる」は、主人公の憧れの存在です。 小説投稿サイトに投稿する高校生で、新人賞の最終選考に残ったこともあります。 あたるには才能がありますが、主人公には才能がなく、劣等感を抱きます。 それでも主人公は、あたる…

【芥川賞予想】第163回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2020年上半期)

第163回芥川賞候補作発表 2020年6月16日、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、7月15日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 『赤い砂を蹴る』石原燃 初の候補入りです。 石原さんは、劇作家で、太宰治のお…

『ヤー・チャイカ』池澤夏樹(著)の感想【大人になったら英雄はいらない】

大人になったら英雄はいらない 「ヤー・チャイカ」はロシア語で、意味は「わたしはカモメ」です。 世界で最初の女性宇宙飛行士、テレシコワのコールサインが、「わたしはカモメ」だったそうです。 ちなみに、人類で最初の宇宙飛行士ガガーリンのコールサイン…

『スティル・ライフ』池澤夏樹(著)の感想【世界はぼくを傷つけることができない】(芥川賞受賞)

世界はぼくを傷つけることができない 主人公は、定職に就かず、アルバイトで生計を立てています。 何をすればいいのだろう。仮に、とりあえず、今のところは、しばらくの間は、アルバイトでもして様子を見る。 淡々とバイトを続けていると、かつてのバイト仲…

『指の骨』高橋弘希(著)の感想【戦争の敗残者】(新潮新人賞受賞、芥川賞候補、三島賞候補)

戦争の敗残者 太平洋戦争が舞台ですが、敵軍との戦闘がメインではありません。 赤道より南の半島で負傷した主人公が、野戦病院に運び込まれてからがメインです。 山裾に建てられた野戦病院には、 片足のない兵士 マラリアで衰弱した青黒い顔の兵士 顔中に包…

本を読んだときに気を付けている3つのこと

1.もっと早く読めば良かった 本を読んだときに、最も気を付けている感想は、 もっと早く読めば良かった 学生時代に読みたかった です。 そのような感想を持ってしまうと、 今読めた自分を否定してしまいます。 さらに、読んだ本から学ぶ意識が薄れてしまい…

新型コロナウイルス(緊急事態宣言)が教えてくれた【本当に必要なもの、なくてもいいもの】

本当に必要なもの 新型コロナウイルス(緊急事態宣言)が教えてくれたことは、 本当に必要なものは何かを考えることでした。 緊急事態宣言下では、 店の営業自粛や営業時間の短縮 在宅ワーク リモート会議 などで、人と接する機会が極端に減りました。 人と…

『午後の最後の芝生』村上春樹(著)の感想【初夏に読みたい短編】

初夏に読みたい短編 夏の匂いや暑い日ざしを感じるので、初夏の時期におすすめです。 ストーリーはシンプルで、芝刈りのアルバイトをする大学生の、バイト最終日の話です。 バイトを辞める理由は、遠距離に住む彼女に手紙で別れを告げられ、金をためる必要が…

『中国行きのスロウ・ボート』村上春樹(著)の感想【死が中国人を思い出させる】

死が中国人を思い出させる 冒頭は、 最初の中国人に出会ったのはいつのことだったろう? で始まり、それを調べるため、主人公は図書館へ出かけます。 しかし主人公は、 僕が最初の中国人に出会った正確な日付になんて誰が興味を持つ? と、思い直し、調べる…

『銃(小説)』中村文則(著)の感想【銃を見つけたら】(新潮新人賞受賞、芥川賞候補)

銃を見つけたら 道端で銃を見つけたらどうしますか? それを誰にも見られていないとして。 選択肢は3つです。 警察を呼ぶ(警察に届ける) 見て見ぬふりをして立ち去る 拾う 普通は、1か2ですよね。 この作品の主人公である大学生は、銃を拾います。 冒頭の…

『苦役列車(小説)』西村賢太(著)の感想【日雇い労働なのは理不尽か】(芥川賞受賞)

日雇い労働なのは理不尽か 19歳の主人公は、中学卒業以来、日雇い労働で生計を立てています。 港の物流倉庫で荷物を運ぶ、肉体労働です。 毎日仕事に行くわけではなく、金に困ったときに仕方なく行きます。 稼いだ金は、食事や酒、風俗代に消えます。 1万円…

『共喰い(小説)』田中慎弥(著)の感想【血は争えないのか】(芥川賞受賞)

血は争えないのか 男子高校生の主人公は、父と再婚の母との三人暮らしです。 生みの母は、近所で魚屋をやっています。右手首から先は、戦争でなくしました。 父は性行為のときに相手の顔を殴ります。 殴られたことがあるのは、 生みの母 再婚の母 近所で体を…

『リリイ・シュシュのすべて(小説)』岩井俊二(著)の感想【生きるか死ぬかの思春期】

生きるか死ぬかの思春期 リリイ・シュシュは女性歌手です。 彼女の歌に魅せられた主人公は、彼女について語り合うネット掲示板を運営しています。 この小説は、掲示板への書き込みだけで構成されています。 例えば、 《投稿者:サティ》7月11日(火)20時44…

『ベッドタイムアイズ』山田詠美(著)の感想【日本人女性と黒人兵の愛欲】(文藝賞受賞、芥川賞候補)

日本人女性と黒人兵の愛欲 主人公は、横須賀のクラブで、歌手やストリッパーとして働いています。 クラブでビリヤードに熱中する黒人男性を見つめていると、彼から目で合図を受けます。誘導されるがまま、誰もいないボイラー室へ行きます。 主人公が何か話そ…

『暗渠の宿』西村賢太(著)の感想【臆病さゆえのDV男】(野間文芸新人賞受賞)

臆病さゆえのDV男 30歳過ぎの主人公は、6歳下の女性と同棲します。 この主人公が、清々しいクズっぷりです。 300万円を彼女の親から借りる 彼女をパートに行かせ、主人公は働きに出ない 彼女の料理の段取りの悪さ(ラーメンの味が違う、麺をゆですぎ)に暴言…

『子どものための哲学対話』永井均(著)の感想【人間は遊ぶために生きている】

人間は遊ぶために生きている 本書は、ヒト(読者)とネコ(著者)の対話形式です。 「何のために生きてるか」という疑問を持つヒトに、ネコは「遊ぶため」と答えます。 「遊ぶ」っていうのはね、自分のしたいことをして「楽しむ」ことさ。そのときやっている…

『働くことがイヤな人のための本』中島義道(著)の感想【仕事に生きがいがない人に】

仕事に生きがいがない人に 本書は「仕事に生きがいを見出せない人」との対話形式です。 例えば、 引きこもりの25歳学生 つまらない仕事にしがみついている40代サラリーマン 著者の中島さんは、仕事における成功に導くわけでも、ゆったりした自分らしい生活を…

『悪意の手記』中村文則(著)の感想【人を殺した後の人生】(三島賞候補)

人を殺した後の人生 15歳の主人公は、死に至る難病におかされていました。 死の恐怖から免れるため、主人公は憎悪を抱きます。 自分も含めた全ての人間をくだらないものであるとし、そのくだらないものが生きている人生をくだらないと考えた。人間を見る度に…

「岡村隆史のオールナイトニッポン(ゲスト:矢部浩之)」の感想【「性格変えろ」と公開説教】

「性格変えろ」と公開説教 炎上のきっかけになった、岡村さんの発言内容は、 コロナが落ち着くまで風俗に行くのは我慢しよう 落ち着いたら、「こんな子いたっけ?」という可愛い女性が風俗で働く 署名サイトには、岡村さん出演の「チコちゃんに叱られる」へ…