いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

2022-01-01から1年間の記事一覧

『1000年後の大和人』松井十四季(著)の感想【保育園の運転手のぼやき】(三田文學新人賞受賞)

保育園の運転手のぼやき 主人公は保育園の運転手をしています。 鬼滅の刃とうっせぇわに辟易しながらバックミラーを見ると8人の保育園児が緑と黒の格子柄のマスクをしながらうっせーうっせーと叫んでいた。 一文目から飛ばしてます。語り口が面白く、引き付…

『詩の楽しみ―作詩教室』吉野弘(著)の感想【詩の書き方のコツ】

詩の書き方のコツ 吉野さんは、詩の定義を、 言葉で、新しくとらえられた、対象(意識と事物)の一面 としています。 対象は、 人 自然現象 社会現象 意識 何でもいいと、言います。 心惹かれた対象をほめようと思い、それを明確に意識の中に持ちこもうとし…

詩人になる方法、現代詩の書き方(『公募ガイド2018年7月号』参照)

詩人になる方法、現代詩の書き方 公募ガイドを参考に、詩人になる方法をまとめます。 プロの詩人になるルートは、 「現代詩手帖賞」を取って単行本を出版 出版した単行本で「中原中也賞」か「H氏賞」を取る だそうです。 では、現代詩手帖賞は、どのようにし…

『くじけないで』柴田トヨ(著)の感想【92歳で産経新聞「朝の詩」に初掲載】

92歳で産経新聞「朝の詩」に初掲載 著者の柴田さんは、息子さんの勧めで、90歳を過ぎてから詩を書き始めたそうです。 柴田さんが腰を痛めて趣味の日本舞踊が踊れなくなってしまったとき、息子さんはなぐさめるために詩を勧めたのでした。 その方の書いた本書…

『現代詩入門』吉野弘(著)の感想【詩の公募コンクールの審査】

詩の公募コンクールの審査 吉野弘さんは、詩のコンクールの審査をしていました。 ある詩の募集は子どもからで、お題は「おかあさん」でした。 大人の詩の場合は、最初の何行かを読めば力倆(りきりょう)のおよその検討がつくけれど、子供の詩の場合は、すば…

『詩のすすめ―詩と言葉の通路』吉野弘(著)の感想【即死場所の読み方】

即死場所の読み方 吉野弘さんが、言葉に興味を呼び起こされるのは、 言葉の意味の重層性に立ち会うとき だと言います。 日常使い馴れている言葉のある一つの意味が、ぐらついてしまって、一つの意味だけでは収拾がつかなくなってしまうときなのです。 例えば…

『生命は』吉野弘詩集の感想【わかりやすいが問いを残す】

わかりやすいが問いを残す 吉野弘さんの詩は、簡潔で分かりやすいです。 例えば、「自分自身に」という詩。 他人を励ますことはできても 自分を励ますことは難しい (中略) 自分がまだひらく花だと 思える間はそう思うがいい すこしの気恥ずかしさに耐え す…

『吉野弘詩集』小池昌代(編)の感想【「I was born」と「仕事」】

「I was born」と「仕事」 理解できない詩が多い中、吉野弘さんの詩は比較的わかりやすいです。 以下の「I was born」は、少年視点の詩です。 僕は<生まれる>ということがまさしく<受身>である訳を ふと諒解した。僕は興奮して父に話しかけた。 ――やっぱ…

映画「浅草キッド」の感想【ビートたけしの師匠】

ビートたけしの師匠 ビートたけしさんが漫才師になる前に過ごした「浅草フランス座」での出来事を描いています。 浅草フランス座では、ストリップショーの間に、お笑いコントをやっています。コントがメインではありません。 浅草フランス座のお客さんは、女…

『遠い指先が触れて』島口大樹(著)の感想【失われた記憶を取り戻す】 

失われた記憶を取り戻す 主人公は、僕(男性)と私(女性)の2人です。 主人公の僕には、薬指と小指の指先がありません。 左手の薬指と小指は途中で止まっている。誰かの感覚を、ない指に感じる。 僕は幼い頃に、ウサギに噛まれたらしいです。 しかし、噛ま…

『ギフテッド』鈴木涼美(著)の感想【母の死に際】(芥川賞候補)

母の死に際 主人公は、飲み屋で働く20代後半の女性です。 歓楽街やコリアンタウンの近くに住んでいます。 母の要望で、母は主人公の部屋に移り住みます。 しかし、すぐに入院してしまいました。 母の命は長くないです。母に付き添うため、主人公は飲み屋を辞…

『家庭用安心坑夫』小砂川チト(著)の感想【坑道に立つマネキン人形を盗む】(群像新人賞受賞、芥川賞候補)

坑道に立つマネキン人形を盗む タイトルの「家庭的安心坑夫」とは何でしょうか。 作中には明言されていません。 関連しているのは、主人公の実家近くのテーマパークの坑道にいる、ツトムというマネキン人形のことです。 ツトムはその坑道の中腹に立っている…

『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子(著)の感想【胸糞悪い『コンビニ人間』】(芥川賞受賞)

胸糞悪い『コンビニ人間』 『コンビニ人間』からユーモアを引いて、胸糞悪さを足したような小説です。 狭い職場の表面的な人間関係の裏にある感情を、さらけ出しています。 登場人物の誰一人にも魅力を感じませんでした。 支店長:「飯はみんなで食ったほう…

『あくてえ』山下紘加(著)の感想【悪態というコミュニケーション手段】(芥川賞候補)

悪態というコミュニケーション手段 タイトルの「あくてえ」とは、 悪口や悪態といった意味を指す甲州弁 で、主人公である19歳の女性は、悪態をつきます。 主人公が、同居の祖母を「ばばあ」と心の中で呼ぶのも悪態の一つです。 主人公は、 祖母 母 の三人暮…

【芥川賞予想】第167回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2022年上半期)

第167回芥川賞候補作発表 2022年6月17日(金)、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、7月20日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめ、受賞予想をいたします。 小砂川チト『家庭用安心坑夫』群像6月号 初の候補入りです。 同作で群像新…

『N/A』年森瑛(著)の感想②【つらい人に掛ける言葉】(文學界新人賞受賞、芥川賞候補)

つらい人に掛ける言葉 感想①はこちらです。 主人公の友人であるオジロの祖父が、コロナにかかり、入院します。 オジロから直接報告を受けた主人公は、どのように声を掛けていいか、悩みます。 オジロにとって重要な友だちだから打ち明けてもらえたのであって…

『N/A』年森瑛(著)の感想①【かけがえのない他人】(文學界新人賞受賞、芥川賞候補)

かけがえのない他人 主人公の女子高生は、教育実習生の女子大生と付き合っています。 主人公は、「かけがえのない他人」に憧れていました。 ホットケーキを食べたりおてがみを送るような普遍的なことをしていても世界がきらめいて見えるような、他の人では代…

『小説家になって億を稼ごう』 松岡圭祐(著)の感想【億を稼ぐ小説の書き方】

億を稼ぐ小説の書き方 小説を書いて億を稼げるのでしょうか。 著者は稼げると言います。 実際に、著者が年収1億円を初めて超えた年の確定申告書の画像が、本書に載っています。 本書でご紹介するのは、小説家で「食べていく」のではなく「儲けて富を得る」方…

『ここはとても速い川』井戸川 射子(著)の感想【見逃してはいけない言葉】(野間文芸新人賞受賞)

見逃してはいけない言葉 主人公は、大阪の児童養護施設で暮らす小学5年生です。 主人公の視点で語られます。 祭りで買ったアメリカンドッグを食べていると、 根もとが白なった短い茶髪の毛が出てきた。引き抜いて、なかったことにするために大急ぎで食べ終わ…

『鳥がぼくらは祈り、』島口大樹(著)の感想【一人称内多元視点】(群像新人賞受賞、野間文芸新人賞候補)

一人称内多元視点 書き方が特殊です。 「ぼく」が使われているので、「ぼく」の視点から描かれている作品かと思いきや、他の登場人物の視点からも描かれます。 例えば、 山吉が振り向いて遣った視線の先にいたのはぼくだった というように、視点が「ぼく」で…

『カメオ』松永K三蔵(著)の感想【犬を放ちたい】(群像新人賞優秀作)

犬を放ちたい 2021年の群像新人賞は、入賞作が3作ありました。 当選作「貝に続く場所にて」 当選作「鳥がぼくらは祈り、」 優秀作「カメオ」 3番目の賞が「カメオ」ですが、私は3作の中で一番面白く読みました。 先が気になり、途中で読むペースを落とすこと…

『ブロッコリー・レボリューション』岡田利規(著)の感想【バンコクに行ったのか】(三島賞受賞)

バンコクに行ったのか 主人公が、「きみ」が見ている光景を語ります。 例えばこんな感じです。 ぼくはいまだにそのことを知らないでいるしこの先も知ることは決してないけれども、きみはバンコクの日々、ルンピニ公園にもほど近い、サトーン通りを折れたとこ…

『パーク・ライフ』吉田修一(著)の感想【小説に書かれていない余白を体験】(芥川賞受賞)

小説に書かれていない余白を体験 「パーク・ライフ」のタイトルどおり、公園が舞台です。 都会の中心、日比谷公園。 公園内で大事件が起こる、といった話ではありません。 昼間の公園でよく見られる風景を切り取った作品です。 主人公は、バスソープや香水を…

『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』の感想【文章の型とは】

文章の型とは 文章術の本を100冊読むより、まずはこの1冊を読んだ方が良いと思いました。 著者がすでに100冊読んで、ポイントがまとめられているからです。 例えば、文章の書き方で大事な「7つの基本ルール」は以下のとおりです。 文章はシンプルに 伝わる文…

『彫刻の感想』久栖博季(著)の感想【樺太の少数民族の末裔】(新潮新人賞受賞)

樺太の少数民族の末裔 主人公は、北海道で非常勤の学芸員をしている、30歳の女性です。 本作は、 主人公 主人公の父 父の母(主人公の祖母) と、三世代に及ぶ一族の物語として、語られます。 祖母は、樺太で生まれ育つ少数民族でしたが、第二次世界大戦時の…

『ミシンと金魚』永井みみ(著)の感想【育児放棄の末路】(すばる文学賞受賞、三島賞候補、野間文芸新人賞候補)

育児放棄の末路 主人公は認知症で、デイサービスや訪問ヘルパーを利用しています。 ある日、主人公は、通院に同行したヘルパーから、聞かれます。 カケイさんの人生は、しあわせでしたか? カケイとは、主人公の名前です。 自分の人生についてしあわせだった…

『ボギー、愛しているか』伊藤たかみ(著)の感想【売春島に打ち上げられた男】(芥川賞候補)

売春島に打ち上げられた男 ボギーとは、主人公の地元の同級生です。保木のあだ名がボギーです。 ボギーは、十九の夏に死んだ。溺死だった。九月の終わり、W島の海岸に打ち上げられたのだ。そこは、地元の売春島だと噂される小さな島だった。 なぜ、ボギーが…

『眼球達磨式』澤大知(著)の感想【小型カメラから見る世界】(文藝賞受賞)

小型カメラから見る世界 「眼球達磨式」というタイトルに、怪しくも引き付けられました。 一体何のことでしょうか。 ごく小さい機体で、手のひらに包み込むことのできるサイズ感。眼球を連想させる球体の合成樹脂ボディは、中央から黒目様のレンズが隆起して…

『サイドカーに犬』長嶋有(著)の感想【母が家を出た】(芥川賞候補)

母が家を出た サイドカーに乗った犬を、主人公は海沿いの道路で見ます。 サイドカーに犬を乗せたバイクが前方を走っていた。犬は行儀よくすわっていた。 主人公も、サイドカーの犬のように行儀がよいです。 欲しいものを、人にねだることができません。 主人…

『猛スピードで母は』長嶋有(著)の感想【心強いシングルマザー】(芥川賞受賞)

心強いシングルマザー 主人公の母の車の運転は、いつも猛スピードです。 主人公は小学5年生の男の子で、母と二人、北海道で暮らしています。 北海道の南岸沿いの小都市だが、背後を背の低い山が囲んでいた。だから海から流れてくる雲が停滞しやすいのだとい…