いっちの1000字読書感想文

平成生まれの30代。小説やビジネス書中心に感想を書いてます。

芥川賞

『指の骨』高橋弘希(著)の感想【戦争の敗残者】(新潮新人賞受賞、芥川賞候補、三島賞候補)

戦争の敗残者 太平洋戦争が舞台ですが、敵軍との戦闘がメインではありません。 赤道より南の半島で負傷した主人公が、野戦病院に運び込まれてからがメインです。 山裾に建てられた野戦病院には、 片足のない兵士 マラリアで衰弱した青黒い顔の兵士 顔中に包…

『銃(小説)』中村文則(著)の感想【銃を見つけたら】(新潮新人賞受賞、芥川賞候補)

銃を見つけたら 道端で銃を見つけたらどうしますか? それを誰にも見られていないとして。 選択肢は3つです。 警察を呼ぶ(警察に届ける) 見て見ぬふりをして立ち去る 拾う 普通は、1か2ですよね。 この作品の主人公である大学生は、銃を拾います。 冒頭の…

『苦役列車(小説)』西村賢太(著)の感想【日雇い労働なのは理不尽か】(芥川賞受賞)

日雇い労働なのは理不尽か 19歳の主人公は、中学卒業以来、日雇い労働で生計を立てています。 港の物流倉庫で荷物を運ぶ、肉体労働です。 毎日仕事に行くわけではなく、金に困ったときに仕方なく行きます。 稼いだ金は、食事や酒、風俗代に消えます。 1万円…

『共喰い(小説)』田中慎弥(著)の感想【血は争えないのか】(芥川賞受賞)

血は争えないのか 男子高校生の主人公は、父と再婚の母との三人暮らしです。 生みの母は、近所で魚屋をやっています。右手首から先は、戦争でなくしました。 父は性行為のときに相手の顔を殴ります。 殴られたことがあるのは、 生みの母 再婚の母 近所で体を…

『ベッドタイムアイズ』山田詠美(著)の感想【日本人女性と黒人兵の愛欲】(文藝賞受賞、芥川賞候補)

日本人女性と黒人兵の愛欲 主人公は、横須賀のクラブで、歌手やストリッパーとして働いています。 クラブでビリヤードに熱中する黒人男性を見つめていると、彼から目で合図を受けます。誘導されるがまま、誰もいないボイラー室へ行きます。 主人公が何か話そ…

『図書準備室』田中慎弥(著)の感想【働かない理由】(芥川賞候補)

働かない理由 主人公は、30歳を過ぎて働いていません。 一緒に住む母の金で、酒を飲んでいます。 自分の金で酒を飲むより、母の金で飲む酒の方が美味いと言っています。 父は、主人公が4歳のときに亡くなり、それ以降、祖父と母との三人暮らしでした。 その…

『限りなく透明に近いブルー』村上龍(著)の感想【乱交、ドラック、暴力】(群像新人賞受賞、芥川賞受賞)

乱交、ドラック、暴力 米軍基地が身近に存在する、若者たちの乱交、ドラック、暴力です。 主人公の名前、リュウは著者と同じです。 著者の経験が入った作品でしょう。 あとがきでは、ヒロインに向けて書かれています。 こんな小説を書いたからって、俺が変わ…

『土の中の子供』中村文則(著)の感想【山奥で埋められた子供】(芥川賞受賞)

山奥で埋められた子供 主人公は、27歳のタクシー運転手です。 幼少の頃、養親に山奥で埋められ、孤児院で育ちました。 その過去は、現在の行動に尾を引いているようです。 たむろしている男たちに向けて、吸い殻を投げる マンションの外壁から身を出して落ち…

『あひる』今村夏子(著)の感想【口に出してはいけないこと】(河合隼雄物語賞受賞、芥川賞候補)

口に出してはいけないこと 主人公と両親の三人暮らしの家で、あひるを飼うことになりました。 名前は「のりたま」 近所の子どもたちがあひるを見に来るので、家が賑わいます。 両親は、家に来る子どもたちのために、お菓子やお茶を出したり、勉強できるよう…

『影裏』沼田真佑(著)の感想【失踪した親友を探す】(文學界新人賞受賞、芥川賞受賞)

失踪した親友を探す 30代の主人公は、岩手に転勤し、一人暮らしをしています。 2年経っても、人との交流はほとんどありません。 主人公は釣り好きで、釣りのイベントに参加したのですが、 誰とも世間話ひとつできず、そんな自分に落胆します。 唯一、心を許…

『四時過ぎの船』古川真人(著)の感想【認知症の祖母と無職の孫】(芥川賞候補)

認知症の祖母と無職の孫 長崎の島を舞台に、 章ごとで、視点が交互に変わります。 認知症の祖母の視点 無職の孫の視点 また、語られる時間軸は同じではありません。 祖母の視点:孫が中学一年生 孫の視点:孫が30歳直前 よって、語られる内容も異なります。 …

『縫わんばならん』古川真人(著)の感想【退屈と評された芥川賞候補】(新潮新人賞受賞、芥川賞候補)

退屈と評された芥川賞候補 芥川賞の選評で、これほど「退屈」と言われた作品はあるでしょうか。 私も読んでいて退屈でした。 ただ、つまらないと切り捨てられませんでした。 この作品は、四世代の一家の声が、多様な視点で語られており、 壮大な記憶を作り上…

『ビニール傘』岸政彦(著)の感想【大阪の街と若者のやるせなさ】(芥川賞候補、三島賞候補)

大阪の街と若者のやるせなさ 繁華街から少し離れた大阪の街が舞台です。 俺たちが暮らしているのはコンビニとドンキとパチンコと一皿二貫で九十円の格安の回転寿司でできた世界で、そういうところで俺たちは百円二百円の金をちびちびと使う。(p.45) そこで…

「大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(結果篇)」の感想【第162回芥川賞の選考委員をメッタ斬り】

番組概要 1月15日(水)に第162回芥川賞、直木賞が決まりました。 芥川賞:古川真人『背高泡立草』 背高泡立草 (集英社文芸単行本) 作者:古川真人 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2020/01/24 メディア: Kindle版 直木賞:川越宗一『熱源』 【第162回 直木…

第162回芥川賞・直木賞受賞作発表、会見、選評(2019年下半期)の感想

第162回芥川賞・直木賞受賞作発表 2020年1月15日(水)、芥川賞と直木賞の受賞作が発表されました。 芥川賞は、古川真人『背高泡立草』 【第162回 芥川賞受賞作】背高泡立草 作者:古川 真人 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2020/01/24 メディア: 単行本 雑…

「大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(予想篇)」の感想【第162回芥川賞、直木賞を徹底予想】

番組概要 1月15日(水)に第162回芥川賞、直木賞が決まります。 受賞作の決定前に、どの作品が受賞するかを予想するラジオ番組です。 出演者(予想する方) 大森望(書評家、SF翻訳家) 豊崎由美(書評家) 芥川賞候補作(5作品) 木村友祐『幼な子の聖戦』 …

『音に聞く』高尾長良(著)の感想【言葉か音か】(芥川賞候補)

言葉か音か 主人公(姉)は翻訳の仕事、妹は作曲をしています。 姉=言葉 妹=音 に、象徴されます。 主人公は、妹に良き指導者をと考え、 音楽理論の専門家である父に会いに、姉妹でウィーンへ行きます。 母と離婚した父は、ウィーンで暮らしていました。 …

『背高泡立草』古川真人(著)の感想【草刈りする理由】(芥川賞受賞)

草刈りする理由 主人公の母の実家に、使われないまま放置されている納屋があります。 納屋の周りには草が生い茂っており、その草を刈るため、親族が集まります。 主人公 母 母の姉 母の姉の子 母の兄 主人公は、草を刈る必要はないと思っています。 納屋は使…

『最高の任務』乗代雄介(著)の感想【卒業式後の家族旅行】(芥川賞候補)

卒業式後の家族旅行 主人公の女子大生は、卒業式に出たくありません。 卒業式に行くか行かないかぐらい自分で決める。お母さんだって来るわけじゃないんだし、それでいいでしょ 母親は言います。 「行く」 「は?」 「家族みんなで」 家族で卒業式に出ると言…

『幼な子の聖戦』木村友祐(著)の感想【幼なじみの選挙を妨害】(芥川賞候補)

幼なじみの選挙を妨害 地元の村長選に、幼なじみが立候補しました。 現職の村長が、スキャンダルを期に辞任したからです。 村議会議員をしている主人公は、幼なじみを応援する予定でした。 ですが、村の有力者の応援を受けて対立候補が出馬し、その応援者か…

【芥川賞予想】第162回芥川賞候補作発表、掲載誌まとめ(2019年下半期)

第162回芥川賞候補作決定 2019年12月16日、芥川賞の候補5作品が発表されました。 受賞作の発表は、2020年1月15日(水)です。 以下、候補作と掲載誌をまとめます。 木村友祐『幼な子の聖戦』 初の候補です。 前回(161回)の芥川賞で、古市憲寿さんの『百の…

『1973年のピンボール』村上春樹(著)の感想【あの時できなかったこと】(芥川賞候補)

あの時できなかったこと あの時できなかったことが、今ならできるかもしれない。 そう思い、行動するには、ある程度の時間が必要です。 主人公は、大学時代にピンボール台「スペースシップ」に没頭していました。 ですが、ゲームセンタ―の突然の閉店で「スペ…

『風の歌を聴け』村上春樹(著)の感想【Happy Birthday and White Christmas】(群像新人賞受賞、芥川賞候補)

Happy Birtday and White Christmas 『Happy Birthday and White Christmas』は、村上春樹さんが本作を応募したときのタイトルです。 受賞の段になり、タイトルが『風の歌を聴け』に変更されたそうです。 なぜ、変更されたのかはわかりません。 確かに『風の…

「大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(結果篇)」の感想【第161回芥川賞、直木賞の選考委員をメッタ斬り】

番組概要 7月17日(水)に第161回芥川賞、直木賞が決定しました。 芥川賞:今村夏子『むらさきのスカートの女』 むらさきのスカートの女 作者: 今村夏子 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2019/06/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 直…

第161回芥川賞・直木賞作品発表、会見、選評(2019年上半期)の感想

芥川賞は、今村夏子『むらさきのスカートの女』 むらさきのスカートの女 作者: 今村夏子 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2019/06/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 今村さんは受賞すると思っていなかったようです。 (受賞会見から)…

「大森望×豊崎由美 文学賞メッタ斬り!スペシャル(予想篇)」の感想【第161回芥川賞、直木賞を徹底予想】

番組概要 7月17日(水)に第161回芥川賞、直木賞が決まります。 受賞作の決定前に、どの作品が受賞するかを予想するラジオ番組です。 出演者(予想する方) 大森望(書評家、SF翻訳家) 豊崎由美(書評家) 芥川賞候補作(5作品) 今村夏子『むらさきのスカ…

『百の夜は跳ねて』古市憲寿(著)の感想【鼻につく窓拭きの青年】(芥川賞候補)

死と隣り合わせの仕事 前作『平成くん、さようなら』では、安楽死を望む青年の話でした。 本作の主人公は、窓拭きの仕事をしている青年です。 青年の耳には、死んだ先輩の声が聞こえます。こんなふうに。 そこで生まれてはいけないし、死んではいけない。そ…

『むらさきのスカートの女』今村夏子(著)の感想【さらりと読めるが、ざらりと残る】(芥川賞受賞)

さらりと読めるが、ざらりと残る 今村夏子さんの作品は読みやすいです。 シンプルな言葉と気になる展開が、先へと読ませます。 ですが、読みやすい=あっさり、ではありません。 読み終わった後に起こる感情は、以下のようなものです。 結局何の話だったの?…

『ラッコの家』古川真人(著)の感想【人とのつながりの大切さ】(芥川賞候補)

現実と思考の行き来 主人公のタツコは、アパートで一人暮らししている高齢の女性です。 夫に先立たれましたが、姪やその子どもがよく遊びに来ています。 彼女たちから、タツコはタッコという愛称で呼ばれています。 たわいもない会話が弾み、笑い声が絶えま…

『五つ数えれば三日月が』李琴峰(著)の感想【大切な人が可哀そうであってほしい】(芥川賞候補、野間文芸新人賞候補)

5年間、会わずに思い続けること 5年間会わなかった人を、思い続けることができますか? この作品の主人公(女性)は、大学院時代から好意を寄せていた女性と、5年の月日を経て再会します。 その女性は結婚し、台湾で暮らしています。 日本で働く主人公は、彼…